文=山口 謠司 取材協力=春燈社(小西眞由美)
よい人間関係を築くきっかけに
面白い本や映画などに出会った時、人にも勧めたくなるものです。しかし、なるべく避けたほうがいい話題なのです。
本や映画の話や自分が見た夢の話、それに加えて宗教や政治の話はしないほうがいいと言われています。
話すほうは読んだばかり、観たばかりで臨場感いっぱいなのですが、聞かされるほうは何が何だかよくわからず、聞くに耐えないのではないでしょうか。
また、あまり信用をしていない人や好感がもてない人から、いくら面白いと勧められても行動にはうつさないでしょう。しかしこれは、話題や相手との関係だけの問題ではなく、その人の話し方や人間性にも問題があるのです。
もし、話を聞いて興味が湧き、勧められた本を読んだり映画を観たりして面白いと感じたら、その人は話し上手でとても知性のある魅力的な人です。
そんな人には感想を伝えるようにします。勧めてくれた人に感想を伝えることは、相手を信頼していることの証にもなるのです。相手は、あなたから尊重されていると感じ、良い人間関係を築くきっかけになります。
ただし、感想の伝え方には注意が必要です。
「感動」だけでは知性が感じられない
感想と言ってもただ「面白かった」「感動した」では感想とは言えません。どこがいちばん心に残ったかを具体的に伝えましょう。
また、友人から勧められた本や映画の感想は、率直に伝えてよいと思います。「ストーリーはよかったけれど、人物に魅力を感じられなかった」「同じ監督ならこっちの作品のほうが好き」など、大いにディスカッションしましょう。お互いに「自分は気がつかなかったけれど、こんな感じ方もあるんだな」ということを知ることは、とても良い経験になります。
上司や仕事先の人から勧められた場合も大いに語り合いたいところですが、なかなかそうもいきません。だからと言って「主人公の健気さに感動しました」「思いがけないラストシーンに感動しました」など、「感動」という表現だけでは、少しも知性が感じられません。
「感動」という言葉は、「そんなことまで! 驚きました」というような、その時だけ感じるショートタイムの感情を表します。
良い本や映画に接し、一日中そのことが心から離れない、次の日になってもまだ心の中で波打っているというような感情には、じつはあまり相応しくない言葉なのです。
受けた感動の余韻がずっと心にある時は、たとえば「心を揺さぶられました」という表現を使ってみましょう。
「揺」という字の旁は「遥」や「謡」という字にも見られ、「長く震えている」という意味を表します。長くその感情が続いている=ロングタイムの感情を表す表現なので、意味を知って相応しい場面で使ってほしいと思います。