「言葉」は人の心を表し、人は「言葉」によって心を動かされる——。初対面の人との会話や仕事先の人とのやりとりで、その言葉から教養を感じることがあるように、「言葉」はその人がこれまでどのような生き方をしてきたのか、どのような知識を蓄積してきたのかが伝わります。とくに如実にわかってしまうのが「語彙力」です。さらに同じ意味のことを伝えても、言葉の選び方で差がつきます。語彙力を豊かに、シチュエーションや相手にいちばん合った言葉を選べる知性が身に付くよう、「語彙力」の本を多く手がける山口謠司先生にご指導いただきます。ご期待ください。

文=山口 謠司 取材協力=春燈社(小西眞由美)

写真:アフロ

褒め方のコツ:外見を褒めてはいけない

 人は誰でも褒められると嬉しいものです。

 相手を上手に褒めることで、恋人や夫婦の関係はもちろん、ビジネスシーンの人間関係も円滑になることが多いでしょう。

 ただし見当違いなところを褒めたり、褒め方の表現を間違えてしまうと、相手をとても不快にさせてしまいます。褒めるということは意外と難しいのです。

「美人だね」

「イケメンだからもてるでしょう」

 相手を喜ばそうとしてつい、言ってしまいがちですが、現代では、外見を褒めることはNGです。リモート会議中に背景を見て「かわいい部屋だね」と言っただけでハラスメントになりかねない世の中なのです。

 ではどこを褒めればいいのか。

 まず、生まれ持った外見を褒める代わりに、その人のセンスを褒めることを心がけましょう。

「とても素敵な時計だね。こんな時計を見つけられるなんて、センスいいなあ」

「君の手帳、とても使いやすそうだね。スケジューリングがうまいのも納得できるよ」

 たとえばその人の持ち物を褒める時、あなたが選んだ物が素敵なのは、あなた自身が素敵だからなんですね、ということをうまく伝えるようにします。このように間接的に褒めることは、相手に喜んでもらえる効果が高いのです。

「この間A社のプレゼンの時のスーツ、とても素敵でしたね。私もあんなスーツが似合うようになりたいです。どこのブランドなんですか?」

 また、このように時間をおいてから相手のことを褒めると、相手から「そんなところまで見ていてくれたんだ、覚えていてくれたんだ」という印象を持たれます。ただし、買ったお店などをしつこく聞き出そうとしたり、あまり親しくない人には嫌がられる場合もありますから、部内の先輩や後輩などに、さらりと言う程度がよいでしょう。

 

褒め方の極意:相手の努力を褒める

 どういうところを褒めると、相手はいちばん嬉しいか。

 それは相手が努力していること、頑張っていることです。内面や行動を褒められると、それが自信にもなり、仕事や勉強などにも前向きになります。

「資格試験の勉強しているんだって。会社の仕事もよくやってくれて、その上さらにキャリアアップを目指すなんて、すごいね。尊敬するなあ」

「今日のプレゼン、うまくいっておめでとう。君の綿密なリサーチ分析の成果が出たね。努力が実ってほんとうによかった」

 職場の後輩にはこのように、頑張っていること、努力してその成果を上げたことを褒めましょう。

 絶対に言ってはいけないのは「この資格、ぼくが勧めたんだよね」「教えた通りやったから成功したね」など、自分の影響があったことを言ってしまうことです。

 こんなことを言った途端、相手のあなたに対する評価は真っ逆さまに落ちてしまいます。これでは相手を褒めるどころか、自分が褒めてもらいたいという、人格の幼さがあからさまに出ています。こんなことを言わなくても、「いえ、◯◯さんのおかげです」と、自然に言ってもらえる人となるよう、努力してください。