「YouTubeは大きすぎて遮断できない」

 そうした中でもロシア政府はYouTubeを締め出していない。西側メディアの専門家はその理由について「YouTubeはロシアで人気があるため、遮断できないと政府が考えている可能性がある」と指摘する。

 グーグルやメタ、ツイッターで政策コミュニケーションを担当したことのあるヌー・ウェクスラー氏は「大きすぎてつぶせない銀行もあれば、大きすぎて遮断できないアプリもある」と述べている。

 イスラエルのウェブアクセス分析企業、シミラーウェブによると、ロシアにおける22年6月のYouTube月間利用者数は8500万人超。またロシアの独立系調査機関レバダセンターが22年4月に同国民を対象に行った調査では、47%がYouTubeを利用していると回答した。ロシア企業VKが運営するSNS「VKontakte(フコンタクテ)」に次ぐ規模である。

 ロシアには、国営ガス大手ガスプロムの傘下企業が運営する動画共有サービス「Rutube(ルーチューブ)」がある。しかしシミラーウェブによると、その22年6月の月間利用者数は970万人と、YouTubeの1割程度。ウェクスラー氏は、「YouTubeのような人気アプリを遮断すれば、国民から反発されることをロシア政府は分かっている」と述べている。

 グーグルは現在、ロシアで広告事業をはじめとする商業活動を停止している。ただ、持株会社アルファベットのルース・ポラットCFO(最高財務責任者)によると、グーグルの21年売上高全体に占めるロシアの比率は約1%。業績全体に及ぼす影響は小さい。

 それでもグーグルはロシア向けにYouTube動画を配信し続ける。YouTubeのスーザン・ウォシッキーCEO(最高経営責任者)は22年5月、「市民が、何が起きているのかを知り、外の世界の視点を持てるように支援したい」と述べた。

 YouTubeは今後も偽情報を排除する方針。同社の広報担当者によると、これまでにウクライナ戦争に関して、約7万6000本の動画と、約9000件のアカウントを削除した。YouTubeの規則では、「すでに十分に立証されている、戦争などの暴力的な事件の存在を否定したり、ゆがめたりする動画」の投稿を禁じているという。

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