全社的なDX推進によりデジタル投資を行う企業は増えつつあるが、その意味するところは企業によって大きく異なる。先行企業の中には、既にデジタルネイティブな組織風土を作り上げ、さまざまなイノベーション投資を通じて新たな事業機会を創出する企業も存在する。しかし、そのような企業はまだほんの一握りに過ぎない。現実には、DX推進体制の成熟度には大きな企業間格差が生じており、いまだ取り組みの初動段階にある企業は少なくない。
DXの取り組みの初期段階においては、新たなビジネスモデルの創出やプロセス改革といった「ビジネス変革」よりも、比較的着手しやすい「業務改善」に関わるプロジェクトから取り組むケースが多い。これにはテレワーク推進、コラボレーション環境構築、電子決裁ワークフローなど、間接業務や就労環境に関わるテーマが挙げられる。実行しやすい取り組みから着手して確実に成果を上げるという意味では、これは理にかなったアプローチといえるだろう。
しかし、決して誤解してはならないのは、これらは必ずしも長期的に競争優位を生み出すものではないという点だ。これらのソリューションは汎用性が高く、短期間のうちに市場浸透するので、強力な競争優位性を期待できない、あるいは優位性を得られてもそれは短期間に留まるだろう。
現在、DXは幅広い意味で解釈されるようになり、ベンダーの喧伝効果も相まって、デジタル化や電子化レベルのソリューションもDXの文脈で語られることが多い。しかし、これは必ずしも本質的なものではなく、DXの本筋は、競争優位の創出や企業価値向上をもたらす「ビジネス変革」を実現することにある。
過去に実施した調査では、デジタル技術(IoT、AI、XR、ブロックチェーンなど)を活用したビジネス変革へ投資する企業は、全体の24%(2020年8月時点)であり、現在も3割~4割程度と予想される。業務改善のための汎用ソリューションには早期対応すべきだが、同時にビジネス変革へのプロジェクト投資を進めることが重要だ。
ビジネス変革に向けたDXの取り組みとは、バリューチェーンの主活動に関わる領域で行うものであり、直接部門に関わるアプローチを指す。すなわち、コスト削減や品質向上を目的とした既存ビジネスのプロセス変革(プロセスイノベーション)であり、事業拡大を目的とした新商品開発や新ビジネスの創出(プロダクトイノベーション)である。これらは各企業のビジネスドメインやビジネスモデルに依拠した取り組みであり、往々にして産業界のトランスフォーメーションにつながる(図1)。
DX本来の目的を見据えて、自社の所属業界における産業DXの動向に追随し、ゆくゆくは市場をリードする役割を果たすようになることが期待される。