米国の動画配信は市場競争が激化しており、企業は有料会員をつなぎとめておくことが困難な状況だと指摘されている。米調査会社のアンテナによると、会員数を増やすためには新作ドラマ・映画の配信が必要になる。しかし、多くの人は新作公開時に加入し、数カ月後に解約してサービスから離れていくという。

 米ウォルト・ディズニーのDisney+(ディズニープラス)は、20年7月にブロードウェイミュージカル作品『ハミルトン』を配信し、会員数を一気に増やした。米アップルのApple TV+(アップルTVプラス)は20年7月に米人気俳優のトム・ハンクス氏が脚本と主演を務めた映画『グレイハウンド』を配信し、会員数を大幅に増やした。

 だが、これら新作配信開始後の数日間に加入した人のほぼ半数は、その後半年以内に解約した。コムキャスト傘下NBCユニバーサルのPeacockは、21年夏の東京オリンピック・パラリンピック配信権を獲得し、米国の加入者が急増した。しかし、五輪開催前後に加入した人の約半数はその4カ月後に解約したという。

 その一方で、動画配信企業のコンテンツ制作・調達費用は年々上昇している。アンテナによるとネットフリックスの21年におけるオリジナル作品制作費用は、前年比33%増の60億8000万ドル(約8400億円)だった。アマゾンは同2倍超の27億1000万ドル(約3800億円)を、アップルは同78%増の21億5000万ドル(約3000億円)を投じた。

追い風が向かい風に変化

 ネットフリックスの22年3月末の会員数は2億2164万人。同社は業界トップで、その地位は揺るぎないとみられていた。だが、最近は新型コロナ禍の巣ごもり需要という追い風も弱まりつつある。

 同社はウクライナ侵攻を機にロシアでのサービスを停止しており、これも会員数減少の一因。またインフレという逆風も吹いている。米国では22年6月の消費者物価指数(CPI)が前年同月比9.1%上昇し、40年半ぶりの記録的な水準となった。追い風が向かい風へと変わる中、ネットフリックスは事業モデルを抜本的に見直し、会員数の増加につなげたい考えだ。