株式会社LIFULL 代表取締役社長 井上高志さん

 不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME'S」で知られる「LIFULL(ライフル)」は、「あらゆるLIFEを、FULLに。」をコーポレートメッセージとして、個人が抱える課題から社会課題まで、事業を通して解決していくことを目指し、幅広く事業を展開している。今年で創業25周年。多岐にわたる事業はどのような思いで生まれたのか。なぜ、課題解決型企業になったのか、創業社長の井上高志代表に聞いた。

――社会課題解決型企業にしようと思われたきっかけを教えてください。

井上 人って、何で働くと思いますか。そもそも働くってどういう意味でしょうか。働くというのは、はた(傍)を楽にするというのが語源だという説もありますが、自分以外の他の人を楽にするとか楽しませるとか、基本的には「利他」の話です。ライスワークとライクワークとライフワークがあるとすれば、ライスワークは生活のために働く。ライクワークは好きなことをやって食えればいい。ライフワークは、誰かのために役に立って、それによって自分のやりたいことが実現していくことです。それは利他主義というわれわれの社是にもつながりますし、事業を通じて多くの人がマイナスからプラスになるとか、笑顔に変わるとか、そういうことをやることが、そもそもの働くということです。ですから、本来は本質的にみんな、そうであるもんだよねと思っています。

――当たり前のことを、当たり前にやっているだけというお考えなんですね。

井上 25歳で起業するまでの3年間のうち、リクルートコスモスという会社で3カ月間だけ働きました。マンションをご案内している時に、あるマンションをすごく気に入ったお客さまがいらっしゃったのですが、住宅ローンの審査が通らず、すごくがっかりされる姿を目の当たりにして。そこで、そのお客さまに喜んでいただける方法を考え、他の会社の物件の情報をかき集め、何軒もそのお客さまに提案しご満足いただける物件を売りました。上司からは叱られましたが、お客さまはすごく喜んでくださった。これは、「働く」ということの普通の行いだと思います。

 上司が怒るのは、「目の前のノルマがあるんだからそれを達成しろ」ということです。ノルマは他の方法でしっかり達成すればいいのではないかと考えていました。結果的に、そのお客さまは、リクルートコスモスの物件は買っていただけなかったが、私が紹介した物件を、ものすごく喜んでくださった。それは中長期的には会社のブランディングにつながってるはずなんです。

 当時はセールストークという名の、オーバートークで嘘をついたり、だまそうとしているようなことを普通にやっている人もいるような業界。さも、それが売れる営業のテクニックみたいな感じの裏にあるのは、一部の中では「お客さんはだましていい存在だ」という認識があったかもしれません。

 大学卒業してすぐでしたが、目の前にいる人のことを考えて商売をするということはものすごくシンプルなことで、喜んでもらうにはどうしたらいいかを徹底的に考えなければならないと気付きました。

 「売れればいい」「自社の利益になればいい」という働き方をしている人たちがいっぱいいるのは、なぜなんだろうと思いますね。

 そもそも働くことは、多くの困っている人たちを助けるために事業活動を行うことであって、本来、どの会社も目的は同じはずです。企業利益優先の世の中になってしまいました。

――そして、業界を変革しようと独立された。

井上 不動産業界の「不」を解消していく。当時、一生で一番高い買い物なのに、情報が分かりづらく、しかも、どこにどんな情報があるのかが分からない。価格が妥当かどうかが分からない。大きな地震や台風が来ても大丈夫かといった性能も分からない、取り扱う不動産会社が誠心誠意助けてくれるのかといったことがユーザー側から不透明で見えにくい状態でした。

 不動産業界には数十万人が働き、産業規模は約50兆円。GDPの10分の1もある巨大な産業が、長らく情報の非対称性が蔓延していることに強い義憤を覚え、何とかして変えたいと、情報の非対称性解消のために独立しました。私が日本の不動産業界を根底から変革してやると思いました。

 創業した当時は、インターネットがまだ全然普及しておらず、不動産情報は紙媒体中心で、しかも網羅的に情報は載っていない。手元に情報が届くのは、10日から2週間遅れ、問い合わせをしても、もう成約済みということがが当たり前でした。

 そこで、不動産情報の見える化を進めるために「不動産情報×インターネット」で、日本初の不動産ポータルサイトを作ったのが、当社のスタートです。さらに情報の非対称性を解消するためにネットワークとデータベースとメディアという、この3つを構築しようと考えました。

――思い描いていらっしゃる変革の、どの程度まで達成されましたか。

井上 国内の不動産領域に関して言えば、思い描いている完成図に対して今、達成率60%で残り40%ぐらいです。

 不動産業界を変革し、さらに市場を活性化し、市場を拡大して、それをグローバル化させていくという4段階を考えています。変革は不満とか不便とか、情報の非対称性があったところを変えていくというところで、「LIFULL HOME'S」はデータベースをより巨大なものにする、ネットワークを広げる、メディア力を強くする。そのために物件情報、価格情報、性能評価、不動産会社評価というような評価をもっと増やし、誰でもが情報の足りない状態ではなく、潤沢に分かる状態にする。

 それから、「LIFULL HOME'S」の加盟店が今、3万店舗ぐらいありますが、試算上、4万から5万店舗ぐらいになると、ほぼ市場は網羅できると思いますので、そこまで拡大する必要がある。「LIFULL HOME'S」というのは、 競合しているサービスにリクルートの「スーモ」や「アットホーム」などがありますので、圧倒的なメディア力も必要です。

 社内でよく話しているのは、日本全国津々浦々の情報が、常に毛細血管のように広がり、瞬時に情報が吸い上げられ、巨大なデータベースになり、それを24時間365日見られるメディアで、ユーザーは、どんな端末だろうとアクセスできるというのを、全部無料で提供するというようなことを目指していきましょうということです。

 一方で、不動産会社側の登録や更新業務に手間暇がかかって大変なため、LIFULL HOME'SがDXでアプローチすることで業務効率化やシステム化を図り、不動産会社が手軽に情報を載せたり、お客さま対応をできるようにしていきます。

 市場の活性化という観点では、少子高齢化に伴い、不動産市場が縮小する中、空き家の見える化をして、民泊などに利活用をすることが求められます。地方自治体とのネットワークも広げていくことで地方創生事業を展開し、空き家問題を解消します。

 民泊に関しては楽天とLIFULLでジョイントベンチャーをつくって予約サイトの運営や施設運用代行事業を行っています。地方にある空き家を利活用して宿泊施設として活用し、それによって地方に人が足を運ぶような流れを作っていきたいと考えています。

 市場の拡大でいえば、プラス投資という目線でも必要ですよね。LIFULLでは世界中の不動産データベースを構築していこうということで、現在はグループとして世界63カ国でサービス提供をしています。

―― 事業を通じて社会課題を解決している訳ですね。

井上 世界中の不満や不便、不透明などの「不」をビジネスで解消することをこれからも続けます。まだまだ手を付けられていない領域はたくさんあります。

 社是は「利他主義」。

 社名の通り、世界中のあらゆる「LIFE」を、安心と喜びで「FULL」にしたい。その実現のために、さまざまな領域でサービスを展開しています。「LIFULL 地方創生」は、空き家の再生を軸に新しいライフスタイルを提案しています。「LIFULL 介護」は、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅など、さまざまな高齢者向け住まいを探すことができる介護施設の検索サイトです。その他にも、人生100年時代を誰もがより自分らしく生きることができるように、「お金に関する不安」を相談できる「LIFULL 人生設計」や働くお母さんが子育てと仕事を両立しながらスキルアップできるママの就労支援事業「LIFULL FaM」などを展開しています。