エッジコンピューティングで役割分担をすることが必要

 ITやIoTの研究者である西氏だが、実践的な研究をモットーに掲げ、数多くのスマートシティやスマートコミュニティの実証実験に取り組んできた。そのひとつがさいたま市における情報流通プラットフォームの構築だ。西氏自身、その構想を推進する一般社団法人美園タウンマネジメントの代表理事を努めている。

 美園地区では「スマートシティさいたまモデル」を推進するために、都市OSとして「共通プラットフォームさいたま版」を構築し、交通やヘルスケアなどの生活支援サービスを提供している。一連の取り組みの特徴は、蓄積されている情報の提供先を選択することができるようになっていることにある。

「ヘルスケアデータや購買データなど個人情報は市のエッジコンピュータに一時蓄積され、匿名化されて提供されます。これで個人情報を安全に保護することができ、提供する時点で課税することも可能になります」と西氏は構想を語る。

 実はこの匿名化の度合いはコントロールされている。個人情報の匿名化の度合いと情報提供者への利益還元はトレードオフの関係にあり、信頼できる提供先であれば匿名化の度合いを小さくして、より確度の高いサービスを受けることができる。無論その逆もある。

 この共通プラットフォームさいたま版の仕組みは情報銀行と捉えることができる。企業と個人の情報のやり取りを管理し、適正な運用を提供することができるようになる。

 情報提供の可否や匿名化の度合いを自由に選択できるようにすることで、情報提供者に利益を提供し、それを実施する自治体は提供するタイミングで利用料を徴収することができる。これによって情報インフラのコストの問題を解決できる可能性がある。

「租税公平主義の観点で、プラットフォーマーも情報銀行からデータ提供を受けられるように情報流通の仕組みをアップグレードできれば、将来、公平で明瞭な課税が期待できます。実現はまだ先の話ですが、今から部分的にでも取り組んでいく必要があります」と西氏は語る。

 全国で進められているスマートシティの取り組みには、地域通貨を発行して生活支援につなげたり、医療情報の提供の見返りで健康サービスを安価に受けられたりすることでメリットを届けるものはあっても、税収に結びつくものはまだない。

 情報銀行については総務省や経産省が認定に関する指針を発表し、民間団体による認定制度が始まったばかり。しかし、地域情報銀行は信用され得る存在であり、スマートシティの具体的ビジネスモデルにもなり得る。

 こうしたエリア内での適切なサービスを実現するのがエッジコンピューティングの役割であり、適材適所でどんなサービスを提供し、どんなメリットをもたらすのかという議論が必要だろう。

「まず、重要なのは成功事例を作ることです。情報の価値は地域に還元されるべきで、その第1歩がエッジコンピューティングの活用です。そのために、クラウドでサービスを提供するプラットフォーマーとスマートコミュニティ・スマートシティとが役割分担をすることが望ましいのではないでしょうか」と西氏は語る。社会を変えるスマートシティの成功事例を期待したい。


※本稿記載の研究内容は、科学技術振興機構戦略的研究推進事業(JST)CREST JPMJCR19K、文部科学省科学技術研究費基盤研究B(JP20H02301)、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の委託研究(委託研究番号22004)の支援を受けたものである。