サイバー空間でGAFAにかなわない日本企業でもアセットシェアには大きな商機が

――物質とサイバーの中間にある低空層では、どのような戦略が有効なのでしょうか。

藤本氏 これは、図4で言えば、③低空戦略の話になります。低空は2010年代に新しくできた、上空のインターネットやクラウドと地上のモノの流れ、この双方とつながっているサイバーフィジカルシステム(CPS)を伴う層です。ここでは、地上での擦り合わせ型のものづくり能力や低空のデジタルツインや上空のクラウド・アプリなどを活用し、日本企業が得意な擦り合わせ型製品や変種変量変流生産におけるものづくり競争力を生かしたデータプラットフォームや、顧客アセット・サービス型、さらには顧客プロセス・サービス型のソリューション・ビジネスモデルが可能です。

 例えば、アセットメーカー(製造企業)が、これまで地上での地道なものづくりで勝ち取ってきた顧客アセットのシェア(つまり自社製品の累積販売シェア)や顧客との信頼関係をベースに、アセットユーザー(顧客)がアセット操作によりサービス(アセット機能)を生み出す際に出てくるデータをアセットメーカー側も共有し、これを活用することでアセットユーザーである顧客のビジネスを勝利に導き、例えば月々いくらの定額でサービス料を得るBtoBのビジネスモデルです(図7)。

 具体的には、地上で発生したセンサー・データ等を地上に近い低空でリアルタイム処理するエッジ・コンピューティング、ネットワーク通信機、あるいは上空のクラウド系アプリなどを顧客アセットに追加して、地上・低空・上空で自在にデータ交換ができるデータプラットフォームを構築します。上空層の消費財系プラットフォームビジネスではGAFAにかなわない日本企業でも、アセットシェアや信頼関係がものをいうこの分野では、メガプラットフォーマーに対しデータの参入障壁を築くことで、大きな商機がありえます。

 ただし、もうお分かりと思いますが、これはものづくりを止めて、サービス業に業種転換するという話ではありません。あくまで良いものを作って売り、アフターサービスも含めて顧客の信頼を得てきたことが、良いソリューションビジネスにつながるわけです。実際この分野で今成功を収めている企業は、ほとんどが、これまで良いモノを販売し、顧客の役に立っています。

 しかしここで留意すべきなのは、複数の異なるアセットメーカーのデータがオープンプラットフォームでつながらない限り、それら複数のアセットを用いた「顧客プロセス」で勝負をしているアセットユーザーは決して喜ばないということです。まずは個々の顧客アセットごとのソリューションサービスから始めるとしても、最終的にはよりオープンな「顧客プロセス」を勝たせるデータプラットフォームを構築し、顧客のアセットシェアと信頼関係を参入障壁として、メガプラットフォーマーが容易に入って来られない参入障壁を築いておく必要があります。このモデルが実現すれば、多くの日本企業の市場評価や株価が上がる可能性もあります。

今日本企業がなすべきは発想の転換と大同団結

――本日お伺いしてきた各戦略につきまして、日本のものづくり企業が実行に移す際に最も留意すべき点、大切にすべきことをお聞かせ下さい。

藤本氏 最後の「アセット・データの共有」についてですが、概してこれまでの日本企業は、競争領域と非競争領域を分け、割り切って考えることが苦手です。しかし「商売敵とは組まない」という狭量な考えに固執していれば、またメガプラットフォーマーが出てきて、「あなたたちが喧嘩をしているのなら我々がお客様の喜ぶプラットフォームを作ってあげましょう」と言って、またまた仕切られてしまうことでしょう。

 今日本企業が目指すべきは、顧客のプロセスデータに関する大同団結です。それは、無理にアセットメーカー各社のプロトコルを共通化しなくても、例えば先端半導体も活用したレトロフィットの「翻訳機付き通信機」ユニットの装着でも可能かもしれません。いずれにせよ、日本企業にとってあくまでもこれまでの地上での強みを生かした地上戦・低空戦、上空戦、という方向での発想の転換は、今後のビジネスを成功させるうえでの大きな課題と言えるでしょう。