自社標準を確立して売り切る戦略で高い成長率・利益率が可能に

――近年の産業界の状況についてご解説いただけますでしょうか。

藤本氏 私は、先ほどのCAPアプローチ(図1)をデジタル化時代の分析に応用し、産業構造を「上空」「低空」「地上」の三層構造のアナロジーで考えています(図4)。

 上空は質量のないICT層(サイバー)で、日本企業が苦手なアーキテクチャ・製品、サービスが主流です。2010年代には、GAFAなどに代表される米国のメガプラットフォーマーが上空を占拠してきました。しかし、物理法則の働く「地上」の製品では依然として強いところが残っている2020年代の日本の企業・産業は、上空と地上を接続する低空層では勝負ができます。地上で現有の競争力を維持した上で、デジタル技術を活用し、上空・低空の成長機会を取りに行く①上空戦略・②地上戦略・③低空戦略に、日本の活路があります(図4)。

 まず①「上空戦略」のお話をします。図5は上空戦で日本がとるべき戦略を漫画的に示したものです。

 恐竜で示されたメガプラットフォーマー企業が左上・右下におり、間に挟まるように地上の哺乳類、つまり日本の優良製造企業などがいます。GAFAのようなメガプラットフォーマーは、自社の技術や設計情報を完全には囲い込まず、「標準インターフェース」という名の業界標準化の「フェンス」を張り、フェンスの外側の設計情報をオープン化しました。やがてフェンスの周辺には、公開された設計情報を活用して、アプリを開発する企業や補完財の製造企業などが多数登場し、これが巨大なエコシステムとなり、その中心でネットワーク効果を発揮しマッチングデータを占有するメガプラットフォーマーを巨大な存在にしました。

 人口が一億人そこそこの日本の企業が、人数がものをいう消費財のメガプラットフォーマーに自らなる事は難しいですが、競争優位を持つ擦り合わせ型の製品・部品・設備を、自社標準でメガプラットフォーマーや有力補完財企業に売り切ることで、かなり大きな高成長率・高利益率ビジネスが実現できるかもしれません。スマートフォンに使われる電子部品、例えばセラミックコンデンサやCMOSセンサーなどの分野に成功例があります。

 大切なのは、日本企業の方も自社標準という名の「フェンス」を張ることです。海外のメガプラットフォーマーや有力補完財企業が擦り合わせ型の高機能部品・設備で設計の比較優位を持たないのなら、それが得意な日本企業が自社標準でそれを売り切るのです。わが国にこのような「強い補完財やその部品・設備」を作る企業が例えば100以上生まれ、その周囲に「潮目を読む」優良下請企業が集まれば、長期間、地域・産業の発展に寄与するでしょう。