先月、世界銀行がビジネス環境に関する国別ランキングを、特定国の意を汲んで修正した事件が、大きな注目を集めた。IMFなど国際機関の経験が豊富な元日銀局長の山岡浩巳氏が、事件の概要と教訓を解説する。連載「ポストコロナのIT・未来予想図」の第55回。

 マスコミや世論が好んで取り上げる話題の一つに「ランキング」があります。大学ランキング、芸能人好感度ランキング、うまいラーメン屋ランキング・・・。毎日のように、何らかのランキングが雑誌やインターネットなどで取り上げられています。

 これらのランキングは、「山の高さ」や「川の長さ」の順位とは異なり、評価を巡る人間の恣意性がどうしても入り込みます。それだけに、本来は眉に唾をして見るべきものですが、日常に溢れるランキングのあまりの多さに、そうした検証もおろそかになりがちです。

 そしてこの9月、世界最大の開発金融機関である世界銀行が各国別のランキングの順位を特定の国々の意を汲んで修正していたという事件が、大きな注目を集めました。

ランキング修正事件の概要

 世界銀行自身が内部調査を行い、報告書の公表を通じて明らかにした事件の概要は、概ね以下の通りです。

 世界銀行は毎年、“Doing Business Report”という報告書を刊行し、この中で、ビジネス環境について各国を順位付けしたランキングを公表しています。

 2017年10月、世界銀行はこの報告書の2018年版を公表しました。この時期は、世界銀行が増資に向けて各国からの協力を得ようとしているタイミングにあり、その交渉の中心にいたのが、当時のキム総裁とゲオルギエバCEO(現IMF専務理事)でした。