実店舗の狙いは「行動や心理の把握」

 新型コロナウイルス禍の外出控えで実店舗は打撃を受けている。だが、来店客数を計測する米ショッパートラックによると、米小売店への客足は徐々に戻りつつある。アマゾンの実店舗もこうした影響を受けた。同社実店舗の売上高は20年に5%減少した。ところが21年4~6月期は41億9800万ドル(約4610億円)となり、1年前から11%増加した(アマゾンの21年4~6月期決算資料)。

 一方で、米国の百貨店は近年相次いで経営不振に陥った。例えば、米シアーズ・ホールディングスと米JCペニーは、18年10月と20年5月にそれぞれ米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を申請し、経営破綻した。米老舗百貨店のロード・アンド・テイラーも20年8月に、米高級百貨店のニーマン・マーカスも20年5月に同11条の適用を申請した。

 米コンサルティング会社のカスタマー・グロース・パートナーズによると、1世代前、米国の小売売上高(自動車、ガソリン、外食を除く)に占める百貨店の売上高は約10%だった。21年は8月時点で1%未満にとどまっているという。

 こうした中、アマゾンの幹部は実店舗を「顧客との関わりを深める場」と捉え、計画を進めている。「消費者の行動や心理を把握し、新たなショッピング体験を提供する」ことが同社の狙いだとウォール・ストリート・ジャーナルは報じている。

書店や食品スーパー、コンビニ、美容室

 米ニューヨーク・タイムズは先ごろ、アマゾンの世界流通総額(GMV)が、米小売り最大手のウォルマートを初めて抜いたと報じた。21年6月末までの1年間におけるアマゾンの流通総額(GMV=Gross Merchandise Value)は6100億ドル(約67兆円)だった。ますます巨大化するアマゾンに対抗するべく、ウォルマートなどの小売り各社も電子商取引(EC)事業の強化を図っている。

 その一方で、アマゾンは実店舗へ投資を拡大している。同社は15年に本社のあるワシントン州シアトルに対面販売方式の書店「Amazon Books」を開店し、リアル店舗事業に進出した。17年には高級スーパーマーケットチェーン「ホールフーズ・マーケット」を買収。このほか、コンビニエンスストア「Amazon Go」や食品スーパー「Amazon Go Grocery」「Amazon Fresh」、ネットの売れ筋商品をそろえた「Amazon 4-star」、美容室「Amazon Salon」などを展開。レジなし決済や手のひら認証などの最新IT(情報技術)を導入した店舗を増やしている。

 (参考・関連記事)「アマゾン、ついに流通総額でウォルマート抜く | JDIR