ウィキペディアは便利なサイトですが、誰でも書き込めるという性格ゆえに、時に自分の都合の良いように捏造、あるいは脚色した内容を勝手に書き込むといった行為が問題視されることがあります。しかしこの点は、多くの人々がチェックし合うことと読み手の判断力によって乗り越えようという発想の下で作られていると言えます。
同様にarXivについても、誰の論文でも、また、査読を経ないプレプリントでも原則としてアップロードできることから、サイエンスとしての方法論やクオリティの面で疑問の多い論文まで掲載され得るという問題はあるでしょう。しかし、これまでの評価は、デジタル空間を通じた知の共有というメリットは、そうした問題をはるかに上回るというものです。だからこそ今日、arXivと類似のサーバーが世界中に次々と生まれているわけです。
何よりも印象的であったのは、世紀の難問と捉えられていた「ポアンカレ予想」を解いたロシアのグリゴリー・ペレルマン氏の論文がarXivだけに投稿され、のちの査読によって、その正しさが明らかにされたことです。ぺレルマン氏のように、隠遁生活を送っており今どこにいるのかも知られていない人の、他の誰もが思いつかないような天才的な証明を、インターネットを通じて誰でも垣間見ることができるわけです。これはまさに、IT化によって可能になったものといえます。