世界成長率はデジタル化で高まったか?

 しかしながら、マクロのデータでは、近年、世界の成長率が顕著に高まっているようには見えません。

世界の成長率[IMFによる(2020年は見通し)]

「情報技術革新の急速な進行」「世界のDX」などと喧伝される一方、それがマクロの経済成長に反映されていないのは奇妙に見え、経済論壇でも多くの議論が行われています。ここで出される仮説は、おおむね以下の4つに分けられるように思います。

 まず、現在の情報技術革新自体、18世紀後半の産業革命などに比べれば、その経済へのインパクトが大きくないのではないか、という見解です。

 次に、技術革新が現実の成長に結び付くまでにはタイムラグがあり、現在はそのタイムラグの時期にある、という見方です。

 3つ目に、情報技術革新の成果は、ディスインフレなどの形である程度現れている、という見方です。実際、デジタル化はさまざまなコストの削減につながりますし、データ処理のコストは急激に低下しています。また、各種のデジタルデバイス(スマートフォン等)の価格は、品質向上分を考慮すれば劇的に低下しているといえます。現在、世界中で大規模な金融緩和が行われているのにインフレにならない背景には、このような価格低下圧力が働いているとの見方です。もちろん、それによって実質ベースでの成長はある程度高まるはずですが、それでもこの程度の成長にとどまっている背景には、労働人口の伸び率の鈍化など、他の要因が寄与していることが考えられます。

 最後に、情報技術革新の果実を、GDPなどを通じて測ること自体が難しく、マクロ統計ではその効果を十分に捕捉できていないのではないかという説です。例えば、銀行がスマホアプリの品質向上を通じて顧客サービスを向上させる一方、支店やATMの数を減らすデジタル化戦略を採る場合、顧客の支払う手数料が変わらない中では、アプリの品質向上をGDPで把握することは難しく、一方で、支店やATMなど固定資産への投資の減少は、そのまま設備投資の減少として計上されるかもしれません。

 今日の段階で、これらの論争に決着がついているわけではありませんが、現実には、これらの現象が混じり合っていると見ておくのが適当でしょう。