これまでも、『フランケンシュタイン』(31)などホラー映画監督として知られるジェームズ・ホエールが1933年に映画化したほか、ポール・ヴァーホーヴェン監督、ケヴィン・ベーコン主演の『インビジブル』(00)などがあった。後者はその後、ヴァーホーヴェン製作、クリスチャン・スレーター主演で続編『インビジブル2』(06)も作られた。
さらにはバッド・アボット、ルー・コステロの喜劇『凸凹透明人間』(51)、原作こそ違うがジョー・カーペンター監督の『透明人間』(92)、それこそ日本映画にも円谷英二特撮監督が手掛けた『透明人間現わる』(49)『透明人間』(54)、大映映画『透明人間と蝿男』(57)などなど。それだけ“透明人間”にはサスペンスを盛り上げる、キャラクターとしての魅力があるのだろう。
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オリジナル版も無料配信中
新作『透明人間』は1933年版を「ソウ」シリーズの脚本家リー・ワネルが監督・脚本を手掛け、現代風にリブート。オリジナルは現在Amazon Primeで無料配信中だが、徐々に透明人間化に成功した主人公の博士が狂気に走り、躊躇なく人を殺していく様子がサスペンスフルに描かれる。
何よりもサイレントからトーキーに変わったばかりの30年代初頭、服を着た透明人間を映し出した視覚効果に驚かされる。今でこそCGで簡単に人間は“透明人間のように”消せるが、当時は大変な撮影だったに違いない。資料によると、俳優は全身黒いベルベットのスーツを着用。光を当て、つや消しの用法で撮影現場の光と合わせたという。
新作も透明人間は世界的権威の科学者である主人公が開発したスーツを着用しているが、実世界でも通用する技術なのではと思えるほど緻密に作られている。そして、このスーツがドラマの重要な鍵を握る……。
大富豪の天才科学者エイドリアンに束縛される生活を送るセシリアはある夜、計画的に家から脱出。失意のエイドリアンは自殺するが、セシリアは彼の死を疑っていた。やがて彼女の周囲で不可解な出来事が次々起こる。これは透明になる方法を発明したエイドリアンによる仕業だと、セシリアは懸命に訴えるが……。
冒頭から台詞はほとんどなし。緊迫感だけで、ヒロインの差し迫った状況が把握できる。特撮やCG以上にカメラワークといった視覚的演出が奏功しているのだろう。加えて、ストーキングされる恐怖は現代社会にも潜むだけに、その異常な執着はリアルに映る。まさに人の目に映らない粘着質な嫌がらせこそが現代の透明人間と言えそうだ。
そして、ヒロインは精神的に追い込まれ、その言動、彼女がしたように仕向けられた行動から次第に孤立していく。最後の驚くべき展開まで決して目が離せない、2時間超のSFホラー・ミステリーだ。
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