文=岡崎優子

監督は『アポカリプト』(2006年)助監督などを経て、メル・ギブソン主演作『キック・オーバー』(2012年)で監督デビューを果たした新鋭エイドリアン・グランバーグ。『ランボー ラスト・ブラッド』TOHOシネマズ日比谷ほか全国にて公開中(配給/ギャガ)
Ⓒ2019 RAMBO V PRODUCTIONS, INC.

スタローンの最長シリーズ最終章

 新型コロナ禍の影響で続々と新作の公開が延期となっている中、シルヴェスター・スタローン主演の人気シリーズ最終章『ランボー ラスト・ブラッド』が公開日を2週間だけ延長した6月26日、全国696スクリーンにて公開された。緊急事態宣言が解除されて1カ月弱。座席稼働率50%、上映回数を減らした興行の中で、オープニング3日間の動員数11万人強、興収1億4500万円はまずまずの成績だったと言えるだろう。客層は男女比8:2、40~50代を中心に20代からシニア層までと幅広く、夫婦での来場も多かったという。

 第1作『ランボー』が公開されたのは1982年。東京など大都市以外の地方では『地中海殺人事件』との2本立てだった。そんな公開当時のことをよく覚えている50代以上がメインの客層だと思っていたが、40代の食いつきが思った以上にいいことに驚いた。やはり37年の歴史を持つシリーズだからなのだろう。

 スタローンにとっては1976年に公開した第1作が大ヒットしアカデミー賞作品賞、監督賞、編集賞を受賞した『ロッキー』シリーズと並ぶ代表作。『ロッキー5 最後のドラマ』(1990年)から16年を経て最終章『ロッキー・ザ・ファイナル』(2006年)が公開されるまで30年、その後のスピンオフ『クリード チャンプを継ぐ男』(2015年)、『クリード 炎の宿敵』(2018年)を加えれば42年の長寿シリーズとなるが、『クリード』の主役はアポロの息子ドニーに扮するマイケル・B・ジョーダンで、スタローンではない。そう考えると、前作『ランボー 最後の戦場』(2008年)から10年以上開いたとはいえ、最新作『ランボー ラスト・ブラッド』までの『ランボー』シリーズが最長であることは間違いない。

 とは言うものの、『ランボー』(1982年)、『~怒りの脱出』(1985年)、『~怒りのアフガン』(1988年)の3作を本シリーズ、第4作『~最後の戦場』(2008年)、第5作をスピンオフと位置づける人も多い。何よりも後2作にはランボーの唯一の理解者であるサミュエル・トラウトマン大佐が不在(演じたリチャード・クレンナは2003年に膵臓がんで逝去)であることも大きいだろう。

 

狂気の肉体を持つランボーのカリスマ

 それにしても『ロッキー』シリーズのロッキー・バルボアをはじめ、『エクスペンダブルズ』シリーズ(2010~2014年/3作、第4作も製作予定)のバニー・ロス、『大脱出』シリーズ(2013~2019年/3作)のレイ・ブレスリンと、スタローンは自身の肉体から強烈なキャラクターを作り上げ、さまざまな敵と闘ってきた。その中で、ジョン・ランボーはどんな存在だったのだろう。

 わずか3日で書き上げた『ロッキー』の脚本を映画会社に持ち込み、ほぼ無名だったスタローン自身が主演することを承諾させた逸話はアメリカン・ドリームの象徴とも言われるが、『ランボー』も1972年に出版されたデイヴィッド・マレル原作の映画化権をスタローン自らが獲得、製作と脚本に加わり作り上げた。寡黙で、暗い影を持ち、鋼のような肉体と意思、冷静な判断力、火のような闘争心を持つ原作のランボー像に惚れ込み、本作のためなら製作中の『ロッキー3』完成が遅れてもいいと言ったとか(実際、『ランボー』撮影中に骨折したため『ロッキー3』の編集が遅延、公開が延期された)。映画化権がワーナーにあった時はクリント・イーストウッド、ジェームズ・ガーナー、アル・パチーノ、ダスティン・ホフマン、スティーヴ・マックイーン、ニック・ノルティ、ジョン・トラボルタらスター俳優の名前が挙がっていたが、スタローンだからこそ、ここまで精神的にも肉体的にも狂気じみたキャラクターになったのでは、とも思う。

武器を自ら作り、罠を仕掛ける流れは第1作をも彷彿とさせる。この用意周到な準備は“First Blood”(先手)に対する“Last Blood”(後手)とも捉えることができそう

 特殊部隊グリーン・ベレー隊員としてベトナムで戦い、心も身体も傷を負って帰国した英雄が国から見放され、友を失い、世間からのけ者扱いされる……すべてはベトナム戦争の悲劇から生まれた物語。閉鎖的な街で警察から難癖をつけられ逮捕、事情聴取に非協力的だと拷問を受けたことから戦争のトラウマが甦り、1000人の州警察&州兵との死闘へと発展する。

 『~怒りの脱出』では軍刑務所に収監されていたランボーが恩赦と引き換えに、今もベトナムにいるアメリカ人捕虜を救出する任務を請け負う。だが、もともと救出する気がなかった本部に裏切られたランボーはまたもや孤独な戦いに身を投じることになる。

 ベトナム戦争の暗部を描いた前作から、アクション色を濃くした娯楽作へと方向を転じたことから、第2作は配収12億円だった前作の約2倍、25億円を稼ぎ出した。全編を通して筋骨隆々の上半身で魅せながら、頭に紐を巻きサバイバルナイフを手に敵を仕留めていく。狙いすました標的に弓矢を放つ。身体に糾弾ベルトを巻き付け片手でM60を乱射する――よく目にするランボーのビジュアルスタイルがここで確立。その後、『~怒りのアフガン』でもそのスタイルは踏襲され、配収23億9000万円の連続ヒットとなった。