他事業との共創で生まれるMaaSの可能性

 このように自動車メーカーや鉄道会社各社がMaaS事業への参入を急ぐのは、今後プラットフォームになるためだけではない。MaaSが単なる移動手段のアップデートではなく、他産業と繋がることで新たな価値を生む共創プラットフォームとしても注目されているからだ。

 先に紹介した「MaaSのレベル定義」のレベル3に到達すると、交通と他サービスが統合し、新たなサービス・産業が創出される。交通と他サービスとの親和性は高く、さまざまなサービスの創出が見込まれるが、ここではその内、特に親和性が高い「不動産」、「保険」、「小売・物流」の三つの領域について見ていこう。

●不動産とMaaSの結合
 これまで利便性の低さから価値が低かった不動産も、MaaSにより移動の問題が解決されることで価値の向上につながる可能性がある。

 例えばサンフランシスコにある共同住宅複合施設「Parkmerced」では住人に対して電子マネーやカーシェアサービス、ライドシェアサービスに使用できる月額100ドルの交通補助を実施し、自動車なしで生活できるコミュニティを提供している。これにより住人はマイカーよりも公共交通機関を利用するようになり、交通費が削減される。また、施設は駐車場スペースを最小限に抑えることができ、両者にとってメリットがある。

 さらに、不動産会社と輸送会社が連携することにより、不動産間の移動の時間を活用する動きも見られる。ソフトバンクとトヨタ自動車によるMONET Techonologiesが三菱地所と進める「オンデマンド通勤シャトル」では、東京・丸の内エリアへの通勤者を、スマートフォンアプリで選択した場所から勤務地付近まで送迎。加えて、シャトル内ではWi-Fiを提供し、膝上テーブルを設置することでオフィススペースとして利用できるようにしている。これによりこれまで移動時間に要していた時間を、働く時間や家族と快適に過ごす時間に変えられるようになった。

 このように一つの会社だけではなく、不動産会社と輸送会社が連携し、街の仕組みとして取り組んでいくことで、時間や場所に縛られない「スマートシティ」の実現を目指していると言えるだろう。

ビジネスパーソン向け車両の車内イメージ(画像は「MONET」プレスリリースより)

●保険とMaaSの結合
 上記のようにMaaSが実現すると、これまでのように個人で自動車を保有することが少なくなる。しかし移動手段がなくならない以上、事故等が起こる可能性は残る。そのため、個人が自動車保険に加入するよりも、モビリティサービスを提供する法人向け保険の需要が増加するだろう。

 こうした将来に対応するため、三井住友海上火災保険が2019年1月にMaaS等の業界動向や技術動向の調査研究、保険ビジネスへの影響を踏まえた対策を計画・提案する専門部署を新設する等、保険会社各社はMaaS分野への対応を進めている。

●小売・物流とMaaSの結合
 小田急電鉄は2018年4月に発表した中期経営計画において「沿線の魅力を牽引する“集客フック駅”と、夜間人口の増加を目指す“くらしの 拠点駅”に役割を分けて、まちの個性を引き立てる投資や仕掛けづくりを行う」と明言したが、MaaSによって移動のプラットフォームができれば、それをドア・ツー・ドアで実現することも可能だ。

 また、利用者の購買データや希望に応じて、最適な移動手段を提供する他にも店舗や商品・サービス自体を運搬することも可能になる

 宅配サービスを行う人員の確保が課題となっているヤマト運輸は、DeNAと共同し、「ロボネコヤマト」の実証実験を行った。これまで宅配は専任のドライバーによる有人運転を行っていたが、「ロボネコヤマト」では自動運転車両により宅配ボックスが配送先まで届き、利用者自身が荷物を車両から取り出すサービスになるという。

ロボネコヤマトが自動運転走行した様子(画像はヤマト運輸株式会社プレスリリースより)

 将来的には無人店舗に対して、自動運転トラックにより商品を拡充し、買い物も決済も無人で行える小売店も実現されるかもしれない。