企業が成長し続けるためのサブスクリプションモデル

 企業側のメリットや事業を成功させるための方法について、ティエン・ツォ氏の『サブスクリプション』を参考にしながら、もう少し詳しく見ていこう。

 モノが売れた時代で重視されていたのは、とにかく市場に製品を送り出して数を売ることだった。売れてさえいれば、「誰が」買ったかはどうでも良いというわけだ。しかし、これからは顧客を中心に据えて、その欲求やニーズに対し継続的な価値をもたらすサービスを創出していかなければならない。前掲の『サブスクリプション』では、AmazonやUberといった先進企業について「顧客一人ひとりが異なる顔を持っていることを認識し、その認識の上にビジネスを構築して成功している」と分析し、大企業を脅かすスタートアップの成功要因も「誰に売っているのか」を知っていることだと指摘している。

 一人ひとり異なる性質を持つ顧客、いわば“個客”を認識・理解して「直接的かつ継続的な関係を確立する」ことに目を向けられる企業が、この先も成長し続けられる企業となっていくのだ。直接顧客とつながり続けていくことで、真に求められる価値を知り、提供し続けることも可能となる。企業側の都合で的外れな「価値」を創出するリスクもぐっと低くなるだろう。

 また、企業がサブスクリプションモデルを取り入れる大きなメリットは、先にも触れた通り安定した収益を確保できる点にある。サブスクリプションは「ストック型」のビジネスモデルともいわれるが、よほど極端な顧客離れが起きない限り、ある程度の売り上げ予測が立てられる。毎月、毎年最低限確保できる金額の目処がついていれば、事業計画も立てやすい。

 顧客に求められる価値を創出し続け、企業として成長していくために多くの企業が導入するサブスクリプションモデル。売り切ってしまえば終わりだったこれまでのビジネスモデルとは考え方が全く異なるため、組織のすべてを変える必要があるとティエン・ツォ氏は述べる。

 また、同著はサブスクリプション型のビジネスで高い成長率を維持する方法を以下の8つの戦略にまとめている。

① 最初の顧客グループを獲得する
② チャーン(解約・離脱)率を引き下げる
③ 営業チームを拡大する
④ アップセル(より高額な上位の製品やサービスに乗り換えてもらうこと)とクロスセル(別の製品やサービスもあわせて購入してもらうこと)で顧客価値を高める
⑤ 新しいセグメントに参入する
⑥ 海外展開を図る
⑦ 買収によって最大限の成長機会をつかむ
⑧ プライシング(価格設定)とパッケージングを最適化する

 詳しくは『サブスクリプション』をご一読いただきたいが、具体的な内容やそれぞれの重要性について、以下に簡潔にまとめた。

① 最初の顧客集団が適切かどうか見極めることの重要性に言及。

② 「自社のサブスクリプション・サービスが成功しているかどうかを判断する簡単な方法は、解約率が抑えられているかどうかを見ること」とも述べられている通りだ。

③ ①②をクリアし、本格的な成長追及に乗り出すための施策。

④ 企業が成長し続けるために必要不可欠な「顧客から得られる価値を高める」ための施策だ。成熟したサブスクリプション・サービスでは、アップセルとクロスセルによる収入が収益全体の20%を占めるという。

⑤ 個人客向けに展開していたサービスを家族や大企業へと販売対象を広げる等の施策。

⑥ ほとんどの企業は海外展開に踏み切るのに時間をかけすぎている。ゼロか100かで決め打ちしてしまうのではなく、グローバル化へ向けてとりあえずの一歩を踏み出すことを勧めている。

⑦ 市場シェアを高めていった結果、いずれ新規顧客がいなくなる時が来る。そうなった際、買収戦略は顧客1件当たりの価値を高める手段として、きわめて重要な鍵となる。

⑧ 最終損益に与える影響の大きさを考えると、本来新規顧客の獲得や既存顧客のための活動よりもプライシングを正しく行うために時間を割くべきである。プライシングが成長のためのテコであり、他7つの戦略全ての背後にある。この考えに立つ企業は一般的に、少なくとも年に一度は価格を更新しているという。

『サブスクリプション』では、サブスクリプション型のビジネスモデルを成功させるには、顧客を理解することで組織全体を改編していく必要があるとされている。あくまで顧客を中心に置き、組織全体でこれらの戦略を考えていく必要があるだろう。

 また同書は「ソフトウェア会社の成長率が年間20%を切ると、失敗する確率は92%になる」という調査結果を取り上げている。ソフトウェア会社に限らず、多くのビジネスがサブスクリプション型に移行せざるを得ない状況になりつつある今、生き残るには絶えず成長し続けるしかない。