Retail Tech領域のトレンド

 それでは、ECサイト以外にはどういったテクノロジーが小売りに活用されているのか、最新事例を紹介していこう。

●店舗の無人化(決済システム、AI等)
 2018年12月17日、セブン‐イレブン・ジャパン(以下、セブン‐イレブン)は日本電気(以下、NEC)と共に初の省人型店舗となる「セブン‐イレブン三田国際ビル20F店」をオープン。国内初となるNECの顔認証決済システムを導入しているため、手ぶらで決済を完了させることが可能。さらに、販売実績や天気といった多様なデータを分析して最適な発注数を提案するAIや、来店者の顔を認識し、属性に応じたおすすめ商品を提案するターゲット広告サイネージやコミュニケーション・ロボット「PaPeRo i」を導入し、業務の効率化と顧客体験の向上を図る。

 慢性的な人手不足を抱え、Retail Tech最前線ともいえるコンビニエンスストア業界。中でもセブン‐イレブンのこの取り組みは、顔認証システムによる省人化の実証実験を行うことだけでなく、昨今ニーズが高まるオフィスビルや病院、学校や工場といった限られた消費者をターゲットとするマイクロマーケットへの本格展開を目的としている。なお同店舗はNECグループ社員のみが利用できる特殊な立地で、理想的なテスト環境といえる。

●VR/AR
 専用の機器を身に着けることで、その場にいながら仮想世界に入り込んだかのような体験を可能にするVR。この技術によって不動産の内覧や車の市場体験等、商品の購入前に疑似体験ができるサービスを提供する企業も増えてきた。「VR内見」をはじめとするVRコンテンツのプラットフォームを提供するナーブは2017年12月26日、限られたスペース内で9つの車種をバーチャル試乗できる「どこでもストア デジタルサイネージエディション」の設置を発表。設置スペースを節約できるだけでなく、大型サイネージに体験映像が映し出されることによって多数の人と体験を共有できることから、効率的な運用が可能ということで話題を呼んだ。

 2019年2月7日にマクロミルが発表したVRに関する意識調査を見ると、15歳から69歳までの調査対象者のうち41%が、VR体験で商品やサービスの「購入意欲が高まると思う」と回答している。今はまだプロモーションの一環としての活用が多い印象だが、今後は触覚や嗅覚も体感できるようになるといわれている。現状、実際にVRを体験したことのある回答者の割合は21%に留まっているが、今後の発展が期待される分野だ。

 一方、現実の風景に情報を重ね合わせて表示する「AR」はどうだろうか。大ヒットしたスマートフォン向けゲームアプリ「Pokemon GO」も認知の拡大を手助けしたように、VRよりも手軽に体感できる技術だ。2018年10月25日、家具小売業大手のニトリは、インテリア業界向けITサービスを展開するリビングスタイルが提供しているインテリア試着アプリ「RoomCo AR」へ、商品の掲載を開始した。同アプリを使うと、スマートフォンのカメラを使って画面に映し出された自分の部屋などの現実の空間に3Dデータの家具を「試し置き」することができる。

 また、ブロック玩具「レゴ」のブランドストアでは、店内に設置された「デジタルボックス」と呼ばれるモニター型の機器に商品の箱をかざすと、完成品の3D画像やアニメーションが映し出される仕組みを提供している店舗も。日本でも2018年6月14日より一部店舗で導入されている。

 購入前に大きさや完成イメージなどを確認できることで、オンラインショッピングで生じやすい返品とそれによる機会損失を低減することができる。

●チャットボット
 チャット(会話)とボット(ロボット)を掛け合わせた言葉で、顧客の問い合わせに自動で対応してくれる仕組み。決められた回答をするだけでなく、AIを搭載することで過去のやり取りから「学習」し、次第により柔軟なコミュニケーションが取れるようになっていくものも。日本ではLINEやFacebookのMessengerのAPIを利用したチャットボットが広く知られている。

 2018年8月11日の日経新聞によれば、チャットボットの世界市場は9年後に6倍強に増える見通し。国内でも大企業を中心として導入に踏み切る事例が増えており、「ユニクロ」を運営するファーストリテイリングは同年7月11日、自社のECサイトでAIが接客するネットサービス「UNIQLO IQ」の一般提供を開始した。旅行やバーベキューなど、着用シーンを入力するとお薦めの衣料品を提案してくれる仕組みだ。

 米国のグランドビューリサーチによれば、チャットボットの世界市場は25年予測で12憶5千万ドルと、16年比で6.6倍に増えるという。こちらも少ない人員で高い顧客体験を提供するため、期待されている技術だ。