そこで、パリ政治学院のホームページを覗いてみると、“l’entrepreneuriat”とか“l’incubateur”とかのフランス語の文字が躍っていた。さらに細かく見ていくと、全体がフランス語の中に“lean start-up”とか “design thinking”とかの英語がそのまま使われている。前者については、まさに第6回で触れたように、GTEで米国人の先生が教えているこの世界では定番の理論であり、後者も英米では最近もてはやされている考え方である。パリ政治学院でも米国流の教え方を取り入れているのである。
そういえば、Station Fでも公用語は英語と聞いた。日本在住のフランス人に聞くと、スタートアップの世界での言葉が英語になるのは仕方ないが、少し残念だと吐露していた。
もっとも、英国とフランスは地理的にもお隣で、歴史上もブルターニュ公国を取ったり取られたりの関係がある。“beef steak”を語源とする“bifteck”はフランス語の辞書にも載っていて、その歴史の名残であると聞いたし、最近では単語の短さから駐車場をそもそものフランス語である“parc de stationnement”というより“parking”と英語を使ったりもする。逆に“~ment”という英単語はだいたいフランス語から来ていると聞いた。
今年(2018年)11月にパリ政治学院の教授を訪問したところであるが、教授自身も米国での訓練を受けており、教え方にも米国流を取り入れているとのことであった。
アントレプレナーシップセンターには学生は誰でも参加でき、他の生徒とチームを組みビジネスプランを練り上げていく。少なくともチームの1人はパリ政治学院の学生であることが必要であるが、メンバーには理系のグランゼゴール「エコール・ポリテクニーク(Ecole Polytechnique)」の学生がなることもあるとのことであった。すでに起業したチームも出て、パリ市からの補助金を獲得したり、大企業にM&Aされてイグジットしたチームもあるとのことであった。
変わる、フランス人の起業意識
さて、名前の出たエコール・ポリテクニークについては、ホームページで「2017 Rapport Annuel」(2017年年次報告書)を読むことができる。その冒頭の「当校の3本柱」のところでは、研究、教育の次に「L’Entrepreneuriat」(アントレプレナーシップ)が掲げられている。そのページを要約すれば次のとおりとなる。
「エコール・ポリテクニークは、アクセラレーターおよびインキュベーターを活用し、健康、安全および経済分野におけるテクノロジーのあるプロジェクトを支援している。当校のスタートアップは国際的にも注目を集めている。また、当校はスタートアップと産業界の結びつきを強化するために『club des industriels』(産業クラブ)を立ち上げた」