動き出したベンチャー育成キャンパス「Station F」

 さて、2017年5月14日に就任したマクロン大統領は、経済・産業・デジタル大臣時代から“la French Tech”(フレンチテック)という起業支援プロジェクトを推進してきており、当選間もない6月29日に開催されたStation Fのオープニングにも駆け付けている。

Station Fの外観。縦は300mと巨大。

 私は、オープニングからちょうど3カ月後の9月29日に訪問した。Station Fは世界最大級のベンチャー育成キャンパスで、場所はパリ13区(市内南東部)のオステルリッツ駅そば。廃屋となっていた貨物駅舎を改装したものである。駅舎だけあって長さは300mを超え、中に起業家3000人を収容するスペースを用意している。航空写真で回りの建物と比べてみてもらえば、その大きさが分かる。

【参考】Station F周辺の航空写真

 当時、写真の右下部分に設置が予定されているレストラン部分は、まだ工事中だった。しかし、左上のイベントスペースでは既に国際的なイベントが開催され、ネームタグをぶらさげた参加者たちが入場するための荷物検査を受けていた。中のテックラボにはレーザーカッターや3Dプリンター、NC工作機械などがあり、試作品製造もできるようになっている。

 このようなインキュベーション施設は国内外に散見されるものの、これほどの規模のものはなく、Station Fもインキュベーションとは言わず、キャンパスと呼ばせている。この大規模施設のオープンを奇貨として、フランスの反転攻勢も現実のものとなる日が来るかも知れない。

 第8回でも少し触れたが、このようなキャンパスに重要なのは、さまざまなイベントを開催し、起業家同士が交流するカオスの中から生まれる化学反応だろう。四六時中「同じ釜の飯を食う」中での交流には、格別な価値があるのではなかろうか。施設というハードばかりではなく、イベントや交流会を企画するソフトの力量も問われる。

中はコンテナを並べたような造り。

 在京フランス大使館の書記官からは、フランスのエリート中のエリートを育成するグランゼコールの卒業生たちがベンチャーに目を向け始めたと聞いたし、グランゼコールの授業にアントレプレナーシップ(entrepreneurship)が取り上げられるようになったという話も聞いた。第9回で書いたように、“entrepreneur”は元々フランス語であり、先祖帰りとも言うべきかも知れない。