「価値の共創」を目指し、意義のあるイノベーションを
インターネットの普及により、「餅は餅屋」的な考え方が企業にとって当然のものとなってきた。組織の内と外との境界線はますます曖昧なものになっていくだろう。今まですべて1社で担ってきた機能が細分化(アンバンドリング)され、それぞれができることを担うようになっていく。個々の企業に残される役割は今よりずっとシンプルになるはず、と川上教授は予測する。
自分の事業をどう分解し、どんな役割を社外に任せて何を社内に残すのか。これはオープンイノベーションへの関心度に関係なく、すべての企業にとって考えるべき課題だ。
ただし同業他社の「残す機能」を真似しても、必ずしも自社にとってプラスとなるわけではないので注意したい。自社に残して融通が利く状態にしておいた方が良い機能もあるだろう。その製品やサービスを世界で展開させたいのか、それとも国内展開のみなのか等によっても戦略は変わる。やはり全体設計が重要ということだ。
最後に今年3月、川上教授が審査員長を務めた第2回「グリーン・オーシャン大賞」で大賞を受賞した化粧品メーカー、ラッシュジャパンの取り組みを紹介してくれた。
同社は福島県の南相馬市の菜種油を素地に使った石鹸を販売し、社会問題起点の優秀なビジネス事例として高い評価を得た。菜の花には土地から放射性物質を吸い上げる働きがある上に、収穫後の種から作られる菜種油には放射性物質が移行しないという特徴を利用した取り組みだ。川上教授は、このように社会性の強い企業も今後はオープンイノベーションによって増えていくだろうと期待を寄せる。
「とにかく“儲かれば良い”と思って株主利益の最適化ばかり追い求めていると、必ず無理が生じます。少しずつ成長する事を目指すのが企業にとって一番無理が無いんです。経済のクオリティを上げることを意識して、皆がやれることをやり、作れるものを作る。オープンイノベーションによって、価値の創造の方向性を探っていけたらと思います」
自社や株主が潤うことやだけを考えていても生き残れない。企業間や消費者との垣根を取り払い、皆で価値の共創ができる社会。実現のためには企業も個人も、経営や人生の目的を明確に表明できるようにしておく必要がありそうだ。