レース直前にルール変更、ハードルが急に下がったのはなぜか?

 実は今回のIACでは、レース本番直前になって主催者によって大きなルール変更が行われるというハプニングが起きた。

 当初の発表では、まず1台ずつのタイムトライヤル方式で予選を行って、決勝でのスターティンググリッドを決める。そしてその上で最終的に混走方式(Head to Head)による20周の決勝レースを行うとされていた。

 ところが実際は、当日になってインディアナ・モーター・スピードウェイ2周5マイル(約8km)を1台ずつが走行して平均時速を競うタイムトライヤル方式に変更された。

 IACの主催者により発表されているYouTube動画(「The Autonomous Challenge @ CES Is Coming To Las Vegas Motor Speedway - Jan 7, 2022」)を見ると、たった2周の走行にもかかわらず、故障してピットストップを余儀なくされたり、走行中に制御を失い、コースを外れてフェンスに接触、またはドリフトして派手にランオフエリアにコースアウトしたりする映像が記録されている。

 これはIAC参加9チームの力量(自律走行の「認知」「判断」「制御」の能力)が必ずしも高いレベルで揃っていなかったことを意味し、仮に計画通り混走方式(Head to Head)で長距離のレースを行えば、かなり高い確率で大規模なクラッシュが発生するリスクを主催者が予測したからだろう。

 このような状況の中で、見事第1回IAC優勝の栄冠を手にしたのは、冒頭で紹介したようにドイツのミュンヘン工科大学のチームだ。2周走行の平均時速は218km/hを記録し、予定の10分の1の距離とはいえ、主催者が発表していたレギュレーション速度の192km/hを1割ほど上回った。

 欧州の大学合同チームからなるユーロレーシング(EuroRacing)は1周のラップタイムとしては参加チームで最速の平均時速223km/hを叩き出したにもかかわらず、走行距離を規定より1周少なく設定するという致命的なプログラミングミスを犯し、優勝を逃した。これは直前のルール変更が招いた不幸な結末と言えよう。

第1回インディ・オートノマス・チャレンジ(IAC)のゴールシーン。チェッカーフラッグを振ったのが生身の人間ではなくロボットという演出も心憎い(IACのYouTube動画より)