質疑応答での回答もメッセージとして伝わる

 プレゼンテーション資料を投影しながらメッセージを語る場合、分かりやすい図表を使うことでメッセージの理解は促進されるはずである。ところが、プレゼンテーションの<わかりやすさ>までを気にしていないメッセージの語り手も少なからずいる。グラフや図表の選択のセンスの問題もあるが、もっと基本的なレベルの問題を抱えていることもあるようだ。

 例えば、遠くからは判読できないような小さな文字の資料を投影して、「これ、見えないと思いますけど・・・」という説明をするシーンを見掛ける。本人が見えにくいと思っているなら、普通に考えれば文字を大きくすべきだが、これでは直す気がなかったということを吐露しているだけである。伝える気がないのだなと思われても仕方がない。

 別の例としては、投影資料が社内ネットワークなどで共有されていないケースもある。ノートパソコンを開いて手元で詳しく見たい、後でじっくり読み返したいという、メッセージの受け取り手としてよい姿勢を持つ人のやる気を削いでいる。

 メッセージの語り手側に、そのような親切心があるのか否かは、見逃していいような些細なことではなく、"神は細部に宿る"というか、一事が万事というか、小さくてもすごく大事なことだと思う。

 さらにいえば、メッセージはプレゼンテーション資料を用意して話をする部分だけでなく、質疑応答の部分も含めてメッセージなのである。

 メッセージの聞き手(受け取り手)が理解できなかったことや疑問に思ったことを聞くことが質疑だが、その回答の巧拙でメッセージの価値は大きく異なる。質問に対してきちんと答える、少なくともきちんと答えようとしていることが聞き手に伝われば、「本気でそれをやろうとしているのだな」というように感じてもらえるものだ。

 逆に、質問に対して笑ってごまかしたり、肩すかしのような返し方をしたり、トンチンカンな回答をしたりすると、最初のメッセージに対しても聞き手は懐疑的になってしまう。

 時々、「本当は答えがあるのだが、ここで言うと誤解されるかもしれないから言わない」という"逃げ口上"をする人がいる。これなどは「ああ、逃げているな」ということが聞き手からははっきりと分かる。真摯に答えようとしていないことで、本来伝えたいメッセージが伝わらないという逆効果になってしまう。

 繰り返しになるが、経営の中で指導的立場にいる人は、現場をバカにしたり、子供扱いしたりしてはならない。現場をバカにした態度はやめるべきだ。自らに対する謙虚さと、現場に対する恐れを失ってはいけないとつくづく思う。

コンサルタント 塚松一也 (つかまつ かずや)

R&Dコンサルティング事業本部
シニア・コンサルタント
全日本能率連盟認定マスター・マネジメント・コンサルタント

イノベーションの支援、ナレッジマネジメント、プロジェクトマネジメントなどの改善を支援。変えることに本気なクライアントのセコンドとしてじっくりと変革を促すコンサルティングスタイル。
ていねいな説明、わかりやすい資料をこころがけている。
幅広い業界での支援実績多数。