もちろん、このような取り組みの環境への評価も、総合的に行う必要があります。例えば、Chiaの登場により大容量のHDD(ハードディスクドライブ)が品薄になったとのニュースもあり、環境ヘの評価においては、これによるHDD需要の増加がもたらす影響まで考慮する必要があります。もっとも、デジタル技術そのものを脱炭素化と整合的なものにしていく取り組み自体は、過剰宣伝にならない限り、基本的に歓迎すべきものと言えます。

脱炭素化に伴う膨大なデータ処理

「脱炭素化」と「デジタル化」を巡るより大きく本質的な問題は、「脱炭素化」が新たに巨大なデータ処理を必要とすることです。

 近代自由主義経済は、価格メカニズムという「神の見えざる手」によって効率的な資源分配が行われるとの前提の下に発展を遂げてきました。一方で、統制的な社会主義経済は、データ処理能力の制約やこれに基づく非効率な資源配分を原因として、その多くが20世紀中に瓦解していきました。

 しかし、脱炭素化の問題は、「価格メカニズムにより、自動的に効率的な資源配分が実現される」という前提自体にチャレンジするものです。そして、地球の持続可能性とも整合的な資源配分を実現するには、従来の「リスク」と「リターン」の判断を超えた、膨大なデータ処理が新たに求められます。

 例えば、個々の企業の行動は脱炭素化と整合的か、グリーン投資の資金が真に意図された使途に割り当てられるのか、また、投資が実際に脱炭素化に効果を挙げているのか等をデータから分析し、評価する必要が出てくるわけです。こうした分析や評価が不十分であれば、いわゆる「グリーン・ウォッシュ」(資金集めや販売促進などのため、自らの活動や商品について環境フレンドリーを装う行為)の問題を止められなくなります。

 電気を見ただけでは、その電気がどのように作られたのかはわかりません。電気が「グリーン」か否かを判断するには、その製造過程までさかのぼって流れをトラッキングする必要があります。「グリーン電力証書」などは、そのために考えられた仕組みの一つです。同様に、サプライチェーン全体を「グリーン化」しようとすれば、個々の部品がどこから来ているのか、また、どのように作られてきたのかまで把握する必要があります。実際、脱炭素化への関心の高まりに伴い、企業に求められる情報開示のボリュームも大幅に増加しています。

ESG情報開示に関する「SASBスタンダード」(出所:日本取引所)
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 さらに、個々の経済主体の行動が地球の持続可能性に本当に貢献しているのかを評価するためには、地球の各地域の気温やCO2濃度などを正確に把握し、さまざまな要因との因果関係を分析していく必要があります。

 このように、地球の持続可能性と整合的な資源配分を、自由な経済活動と両立させながら実現していくには、デジタル技術の活用が不可欠です。脱炭素化とデジタル化はやはり切っても切れない関係にあり、デジタル技術革新無しには脱炭素化が世界のアジェンダとして浮上することも難しかったでしょう。