宮大工の無数の道具のように、酒造りの道具=麹を多様化する
WAKAZEの仕事を終えてフランスから帰国する時、今井さんは、パリで宮大工をテーマにした展覧会を見た。展示されていたのは無数の道具。
「現代の大工さんが使う道具は、多分2、30とかそのぐらい。宮大工さんは今も100を超える道具を1人で扱い、作りたいものに合わせて専用の道具を自作する。現代の電動工具のような効率性はなくても、その道具でしか表現できないものがある」
今井さんはそれを見て「麹も道具じゃないか」と思った。麹という道具を多様化させることで酒の表現は広がる。そして宮大工のつくるものは数百年、持続する。
「酒造りも、100年先を見るならば、多様性が必要だと思いました」
「米麹のような改良、最適化された道具は、電動工具でまっすぐ切るような状態。そうでない、ちょっと弱い道具たちとどんな酒ができるか」(今井さん)(写真提供:LINNÉ)
見たことのない画材で描かれる日本酒のアート
「麹=道具」を多様化させることは、クラフトサケのバリエーションとは次元の違う変化をSAKEに描く。
「たとえば清酒が、一本の筆で描くモノクロの墨絵の世界だとします。フレーバーをつけるクラフトサケは、そこに色彩の自由を手にしたといえます。でも、それは”同じ筆”で描いた絵なんです」
京都の宮大工「匠弘堂」の横川総一郎代表と。YouTubeで二人の対談動画を見られる(写真提供:LINNÉ)https://www.youtube.com/watch?v=d5_veZWi5qI
酒造りには扉が二つある、と今井さんは言う。
「通常、清酒は、米麹×米という組み合わせ。クラフトサケは米以外のものを掛け合わせることで、副原料という片方の扉を開いた。でも、まだこっち(麹の側)が開いてない。自分たちは、まずは副原料の扉は閉じ、麹の方の素材の変数をいろいろ見せてゆく。そして次に両開き、というところで、自然界のあらゆる素材を酒にできる可能性が開く」
社名のLINNÉはスウェーデンの博物学者、カール・フォン・リンネに由来する。そこに、あらゆる自然界の原料を組み合わせて酒を醸す「クロスボタニカル」というコンセプトを込めた。
宮大工が描いた「800」のシンボルマークには、重力と建物の荷重のバランスを手仕事で図る宮大工の感覚が宿る
「麹」をアイデンティティに。SAKEは日本酒から「世界酒」へ
とはいえ、既存の酒に「異を醸し」、解体していった先に、SAKEのアイデンティティは、どこに残るのだろうか?
今井さんは、それこそが麹だという。フランスで酒造りをする時、唯一持参したのが麹菌だった。
「麹菌は日本の国菌。麹で酒を醸すという発酵技術に、世界の素材が乗っかっていくことができたら、日本の酒造文化が世界に貢献できる」
つまり、麹による酒造りが世界に広まれば、酒は、日本酒から「日本発の世界酒」になる。
「フランスで、ローカルの素材で、造り手がその土地の料理に合わせて、酒がどんどん進化し、現地化していくことに手応えを感じました。造り手を増やすと酒は進化します。それぞれの国で地酒を作れるような技術基盤を創っていくことも、酒の未来を考えた時に重要です」
フランスで醸造するブランドWAKAZE。現地素材を使い、レストランも運営。「麹菌だけは日本から持って行った」(今井さん)。日本の国菌が、世界でSAKEを醸す。(写真提供:LINNÉ)
