左から日本CFO協会/日本CHRO協会シニア・エグゼクティブ日置圭介氏、一橋大学名誉教授 伊丹敬之氏、IHI取締役常務執行役員 瀬尾明洋氏(撮影:川口絋、以下同)
人的資本経営の議論が広がる中、人的資本開示やKPI(重要業績評価指標)の設定が先行し、現場で人を育てる仕組みづくりが置き去りになっている。さらに日本企業では、主戦場を避ける「撤退戦」が繰り返され、挑戦する文化が失われつつある。今こそ、構造を描き直し、次代を育てる経営の在り方が問われている。
人をどう生かし、組織をどう変えていくべきか。一橋大学名誉教授の伊丹敬之氏、IHI取締役常務執行役員の瀬尾明洋氏、日本CFO協会/日本CHRO協会シニア・エグゼクティブの日置圭介氏が語り合った。
人的資本経営に感じる“空洞化”とずれ
伊丹敬之氏(以下、敬称略) 近年、「人的資本経営」という言葉をよく耳にするようになりましたが、私はそこに少し引っかかるものを感じています。人を大切にするのは、経営においては昔から当たり前のこと。それをあえて「資本」と呼び換える必要があるのか、正直、少し違和感を覚えるところがあります。
瀬尾明洋氏(以下、敬称略) 私も同じように感じます。資本市場からの開示要求に応える形で人的資本という言葉が使われていますが、「人をどう生かすか」という、人と経営との関係に対する本質的な議論とは少しかみ合っていないように感じます。
人と経営との関係を、時代を超えて捉え、時代に合わせるところは合わせる、その必要がないところはきちんと守ることが大事です。時代を超えて捉える視点は、伊丹先生が1987年に出版された『人本主義企業』(日経BP)にて既に触れられている点です。








