左から日本CFO協会/日本CHRO協会シニア・エグゼクティブ日置圭介氏、一橋大学名誉教授伊丹敬之氏、IHI取締役常務執行役員瀬尾明洋氏(撮影:川口絋、以下同)

 1970~80年代に世界を席巻したものの、さまざまな要因によって競争力が衰えた日本企業。特にIT分野での人材不足、「無理をしない経営」の常態化は、競争力低下の大きな原因となった。変質した官民関係や形式的なガバナンスの下で、どうすれば日本企業は挑戦する姿勢と人材育成力を取り戻せるのか。

 一橋大学名誉教授の伊丹敬之氏、IHI取締役常務執行役員の瀬尾明洋氏、日本CFO協会/日本CHRO協会シニア・エグゼクティブの日置圭介氏が語り合った。

競争力の差を生み出す「根源的なもの」は何か

日置圭介氏(以下、敬称略) 次々と登場する新しいキーワードが、古いキーワードを塗り替えていく。そうした現象が続いていますが、企業の強さや産業の競争力を本当に左右しているのは、言葉そのものではありません。

 情報ばかりが増え続ける現代において、私たちの思考は、気付かぬうちに浅く、偏ったものになってしまいがちです。だからこそ、目まぐるしく移り変わる言葉の深層にある本質──すなわち企業や産業の競争力の差を生み出している根源的なもの──に目を凝らす必要があると感じています。

 その差は、どこから生まれてくるのか。派手な概念や経営理論ではなく、もっと素朴で、人間的な部分にこそ手がかりがあるはずです。人はどう成長するのか。その人たちが集まった企業は、どのように動き、どのような力を発揮するのか。そして、それが長い目で見て、産業や国の方向性をどのように決めるのか──。

 本連載のタイトルを「組織人類学」としたのは、人を思考の中心に据え、時代の流行を超えた本質を言葉にし、後世に手渡せる手がかりを探りたいと考えたからです。

 そして、とりわけ「競争」に焦点を当てたいと思うのは、競争の場こそが、人と組織が積み重ねてきた選択や学びが成果や持続性の差となって表れる場所だからです。勝ち負けそのものではなく、その背後にある構造や思考の違いを、競争というレンズを通して見極めたいと考えています。