スターシップからリリースされるスターリンク衛星V3のイメージイラストⒸSpaceX
ロケット開発や衛星通信、宇宙旅行など、多様な企業が競い合う宇宙産業は、2040年に市場規模1兆ドル超と予測される成長分野だ。本連載では、宇宙関連の著書が多数ある著述家、編集者の鈴木喜生氏が、今注目すべき世界の宇宙ビジネスの動向をタイムリーに解説する。
スペースXが米エコスターから2兆5500億円で周波数帯と衛星通信ライセンスを取得。「スターリンクフォン」が誕生すると、通信業界の勢力図はどう変わるのか。
「スターリンクフォン」が誕生する?
2025年9月8日、イーロン・マスク氏が率いるスペースXは、アメリカの通信事業会社エコスターと契約を交わし、Sバンドの専用周波数帯(AWS-4、PCS-H)と、全世界で使用可能な移動衛星サービス(MSS:Mobile Satellite Service)のライセンスを170億ドル(2兆5500億円)で購入したと発表した。
人工衛星とスマートフォンを直接結ぶDTC(Direct to Cell)においてスペースXは、これまでは衛星通信プロバイダー(衛星の運用会社)としての役割を果たし、そのインフラをKDDIや米国のTモバイルなどのキャリア(通信事業者)に提供してきた。しかし、今回のエコスターとの契約によって独自の周波数帯を獲得したスペースXは、KDDIなどと同様に、DTCサービスを一般顧客へ直接提供するキャリアとして事業展開することが可能となった。そのため数年後には、スペースXによる世界的なモバイルキャリア「スターリンクフォン」が生まれる可能性がある。
この契約によってスペースXはエコスターに対し、最大85億ドル(1兆2750億円)を現金で、最大85億ドルを株式発行によって支払う。またこの契約には、エコスターが抱える債務の利息約20億ドル(3000億円)を、2027年末までスペースXが負担することも含まれている。






