出所:共同通信イメージズ
組織の変革に挑むリーダーには、どのような考え方が求められるのだろうか──。こうした問いについて、「変革を成就させるには、正義感と批判的精神の両面を兼ね備えたリーダーが必要」と語るのは、2025年5月、著書『[新版]組織行動の考え方: 個人と組織と社会に元気を届ける実践知』(東洋経済新報社)を出版した立命館大学総合心理学部教授の髙橋潔氏だ。リーダーに求められる役割や、組織の構成員に変革に向けた行動を促すためのアプローチについて、同氏に聞いた。
モチベーションを支配する「2つの状況」
──著書『[新版]組織行動の考え方: 個人と組織と社会に元気を届ける実践知』では、働く個人の活力に関わる「モチベーション論」について解説しています。困難な目標に立ち向かうようなプロジェクトにおいては、どのように人材のモチベーションを引き出すことが必要なのでしょうか。
髙橋潔氏(以下敬称略) モチベーション論にはさまざまな考え方が提示されており、唯一の正解はありません。本書でも、モチベーション論の迷宮と表現しているように、そこに難しさがあります。そこで、迷宮を迷わずにくぐり抜けるには、原則論として「接近のモチベーション」と「回避のモチベーション」の存在を意識する必要があります。
「接近」と「回避」は人間や動物の基本的行動を支配するものです。動物であれば、食物や異性といったプラスの対象には近寄り、危険物や敵といったマイナスの対象からは逃げようとするものです。私たち人間であれば、「うれしいこと」や「楽しいこと」といったプラスの感情をもたらしてくれるものに近づこうとします。反対に、「悲しいこと」「怖いこと」「不安・ストレス」といったマイナスの感情を引き起こすものからは遠ざかろうとします。
ここで注意が必要なのは、心理学において接近と回避を比べた場合、回避の方が行動を引き起こす強い動機になりやすい点です。怒りや恐れなどのネガティブな感情は、思考の範囲を「今・ここ」に限定します。
怒りや恐れの感情が支配すれば、瞳孔が開き血圧が上がり、「戦うか逃げるか」(ファイト・オア・フライト)という臨戦態勢に入り、心と体の働きを集中させるメカニズムがあるのです。当然、自分の身を守るサバイバルに役立ちます。他社との競争を意識して経営陣が社員の危機感をあおれば、会社のサバイバルには機能するわけです。
一方で、「うれしい」「楽しい」というポジティブな感情は緊急事態や今すぐの行動にはつながりませんが、視野を広げるきっかけとなり、その結果、行動の仕方や使えるリソースも広がってきます。この点については、ノースカロライナ大学のバーバラ・フレドリクソン教授が体系化した「拡張形成理論」で解説されています。
つまり、ポジティブな感情は思考や行動の範囲を広げ(拡張)、知識やスキルや人間関係のようなリソースを形づくり(形成)、長期の適応に役立てることができるのです。
![金井壽宏、高橋潔、服部泰宏『[新版]組織行動の考え方: 個人と組織と社会に元気を届ける実践知』(東洋経済新報社)](https://jbpress.ismcdn.jp/mwimgs/d/1/1200mw/img_d159e5a2a44350b5e3f37ddb410a6f23159587.jpg)





