出所:共同通信イメージズ
モノがあふれる現代、多くの企業が顧客の心を動かす体験づくりに力を注いでいる。こうした取り組みについて「感動を狙うより、顧客にとっての煩わしさを解消することが重要」と話すのは、企業のマーケティング支援などを行うシンクロ社長の西井敏恭氏だ。そこにはどのような狙いがあるのか。2025年6月に書籍『「顧客が増え続ける」科学 デジタル時代のマーケティング新定跡』を出版した西井氏に、顧客からの評価を高めるために必要な「エフォートレス」の考え方や、優れた体験を提供する企業の実例について聞いた。
顧客接点が増える時代に必要なのは「エフォートレス」
──著書『「顧客が増え続ける」科学 デジタル時代のマーケティング新定跡』では、顧客の継続購入を増やすためには「エフォートレス」が重要と述べています。エフォートレスとはどのような概念なのでしょうか。
西井敏恭氏(以下敬称略) エフォート(effort)の英訳である「努力」という意味から分かるように、エフォートレスは「お客さまの努力をなくす」という概念です。日本における従来型のマーケティングの定跡は、お客さまの感動体験の設計を重視し、それによってお客さまを増やすことだったため、目指す方向性の違いがあると分かるはずです。
もちろん、今でも感動体験が意味を成さないとは思いません。しかし、現代はデジタル化の進展によって、企業とお客さまの接点が劇的に増加している点に注目する必要があります。例えば、商品の購入が年3回であっても、メルマガやSNS、LINE、アプリ通知などで年に何十回もの接点が生まれています。それだけに一つ一つの体験で煩わしさを感じると「面倒だ」「使いづらい」とネガティブな印象を与えてしまい、顧客は離れてしまいます。
実際、低い評価の口コミやレビューの多くには、サービスの面倒さや使いづらさについて書かれています。一方、高い評価のレビューには「スムーズだった」「使いやすかった」「操作が簡単だった」という言葉が並び、感動体験を語る人はごく少数なのです。
──感動体験よりも、エフォートレスであることが評価される時代になっているのですね。
西井 あらゆる商品・サービスが世の中にあふれ、コモディティ化する中では、感動体験をつくり出す難易度は上がっています。
そうした環境下で顧客に継続利用や高評価をしてもらうためには、感動を狙うより、「毎回の利用で発生する煩わしさを徹底的になくすこと」に注力した方が圧倒的に筋がよいと考えています。







