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 企業が抱く「売りたい気持ち」は、すぐに消費者に見透かされる時代になった――。そう語るのは、企業のマーケティング支援などを行うシンクロ社長の西井敏恭氏だ。人々の購買行動が変化する中、企業にはどのような取り組みが求められるのだろうか。2025年6月に書籍『「顧客が増え続ける」科学 デジタル時代のマーケティング新定跡』を出版した西井氏に、今求められるマーケティングの在り方や、優れたマーケティング手法によって事業を成長に導いた実例について聞いた。

マーケティングは「売れる仕組みづくり」だけではない

──著書『「顧客が増え続ける」科学 デジタル時代のマーケティング新定跡』では、時代の変遷とともにマーケティングの在り方を変えることの必要性について述べています。その背景には、どのような環境変化があったのでしょうか。

西井敏恭氏(以下敬称略) いまだに「マーケティング部門と広告宣伝・PR部門は同じ役割を担っている」「マーケティングとは広告やプロモーションのこと」と捉える企業が多いようです。しかし、そうした捉え方は誤りだと考えています。

 確かに、かつてマーケティングにはそうした役割が求められる時代もありました。しかし、インターネットが普及し、WEB広告やネットショップが増え、カスタマーサポートもメールやチャットで対応できるようになった今、マーケターには新しい手法やツールをいちはやく導入・活用することが求められています。

 大きな変化が起こったのは2015年ごろです。スマートフォンを持つ人が人口の過半数に達し、生活者が手元のスマートフォンからいつでもインターネットに接続できるようになりました。何かを買いたいと思ったら即座に調べたり、SNSを見て商品を選んだりすることは当たり前になりました。つまり、顧客接点が劇的に増えたのです。そうした時代においては、マーケティングの在り方を根本から見直す必要があります。

──今、マーケティングはどうあるべきなのでしょうか。

西井 かつて私は化粧品の直販会社ドクターシーラボでの在籍経験から、「マーケティングとは、売れる仕組みづくりだ」と考えていました。しかし、食品の宅配サービスを手掛けるオイシックス(現オイシックス・ラ・大地)にCMOとして入社してから、その考えは変わりました。

 オイシックスの社長から「売れる仕組みが大事なのは分かるけど、ちょっと違うんだよね」と指摘されたのです。そして、インターネットとスマートフォンの普及によって企業と消費者の距離が近くなり、企業の「売りたい」気持ちはすぐに消費者に見透かされるようになったこと、マーケティングの本質は企業が抱く「売りたい気持ち」をお客さまの「買いたい気持ち」にいかにして変えるかが重要、ということを教わりました。