出所:共同通信イメージズ
「ニッポン半導体」復活の機運が高まっている。しかし、政府による巨額の補助金や期待ばかりが先行する状況を警戒する声も少なくない。日本の半導体産業復興に向けて、半導体企業の経営や産業政策にはどのような視点が必要なのか――。こうした問いに対して「半導体事業のプロ経営者であった故・坂本幸雄氏が遺した知見を生かすべき」と語るのは、2025年3月に著書『ニッポン半導体復活の条件 異能の経営者 坂本幸雄の遺訓』を上梓した、日本経済新聞 編集委員の小柳建彦氏だ。坂本氏はどのような功績を残し、どのような経営手腕を発揮していたのか、小柳氏に話を聞いた。
坂本氏が日本の半導体業界に抱いていた「強い違和感」
――著書『ニッポン半導体復活の条件 異能の経営者 坂本幸雄の遺訓』は、旧エルピーダメモリ(現マイクロンメモリジャパン)を世界第3位のDRAMメーカーに成長させた故・坂本幸雄氏(1947~2024年)を中心に描かれています。どのような思いから本書を出版したのでしょうか。
小柳建彦氏(以下敬称略) 私は1990年代半ばから日本の半導体産業を取材してきましたが、数多くの経営者の中で、坂本氏の経営者としての手腕は際立っていました。
そして2020年代に入ってからの坂本氏は私にとって、大切な知恵袋的存在の取材先でもありました。半導体ビジネスや技術トレンドなど、取材の際に投げかけた素朴な疑問に対して、いつも明快な分析や見解で答えを与えてくれました。
日本では2020年ごろから「先端ロジック半導体を日本国内で製造できるようにすべき」という議論が本格化し、台湾積体電路製造(TSMC)の誘致やラピダス設立といった半導体業界の動きが活発化していきました。そういった局面だからこそ、坂本氏の経験と知見を一冊の本としてまとめたい、と考えたことが今回の企画の出発点です。
――ここ数年の日本の半導体業界の動きについて、坂本氏はどのような考えを持っていたのでしょうか。
小柳 TSMCやラピダスといったファウンドリー(他社の半導体の製造を請け負う業態)を半導体産業復興の核に据えようという戦略、政策に対して強い違和感を抱いていたようです。
かつて日本の総合電機メーカーは、高値でも売れる「製品力」の確立に失敗し、半導体事業に挫折してきました。坂本氏はそうした姿を目の当たりにしてきたからこそ、政府や産業界に言いたいことがたくさんある様子でした。
しかし、取材を進める過程で、2022年の夏ごろから坂本氏が中国のDRAMスタートアップに関わり始め、書籍の企画がいったんストップします。そして2024年2月、坂本氏の訃報(ふほう)が届きました。
こうした背景から企画を変更し「日本の半導体産業はどのように発展し、頂点まで上り詰め、そこから落ちていったのか」という日本半導体産業史を軸に、その中に坂本氏の個人史を入れる形で本をまとめることにしました。







