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 管理会計やファイナンスの知識とスキルを備え、経営者を日々支援する「FP&A(Financial Planning & Analysis)」。「米国ではすでに一般的な組織だが、2020年頃から日本の大企業でも立ち上げる事例が増えてきた」と話すのが、2025年6月に著書『実践 日本版FP&A』を出版したストラットコンサルティング代表取締役の池側千絵氏だ。日本企業においてFP&A はどのような役割を果たすのか、大規模な組織再編の中でFP&A組織を立ち上げたリクルートではどのような役割を担ったのか、池側氏に話を聞いた。

「日本版FP&A」が「欧米型FP&A」とは異なる理由

――著書『実践 日本版FP&A』では、日本企業が導入するFP&Aを「日本版FP&A」として、その特徴について解説しています。日本版FP&Aと欧米型FP&Aの間には、どのような違いが見られるのでしょうか。

池側千絵氏(以下敬称略) 日本版FP&Aと欧米型FP&Aの間には、主に3つの違いがあります。1つ目は、日本企業にとってFP&A機能の導入や強化が大きな変革であり、そのためには「理由が必要である」という点です。米国先進企業において、FP&Aは一般的な職種であり機能です。特段改まって変革するものではありません。

 一方、日本企業でFP&A組織を立ち上げたり、人材育成を始めることは大きな変革です。そのため、「なぜ導入したいのか」という理由や目的が重要になります。理由や目的がないと、社内のメンバーを説得できないからです。

 そして、そこでの論点は「現在の経営課題をFP&Aが解決できるかどうか」です。例えば、コーポレート部門と事業部門の間に隔たりがある場合、FP&Aを通じて連携を深めることで、企業のポートフォリオ管理や業績目標達成ができるようになります。DXとデータドリブン経営を進めるにあたっては、システム・ツール等の導入と並行してそれを使う人材であるFP&Aが必要になります。FP&A機能導入や強化の目的は企業の課題によって異なるため、よく検討していただく必要があります。

 2つ目は、組織構造の違いです。米国では通常、CFO組織内にFP&Aを配置します。CFO組織に経理部とFP&Aの両方が存在するイメージです。一方、日本企業ではCFOというポジションそのものが存在しないケースや、ポジションはあっても担当領域は経理財務のみで、経営企画部門が別に存在している場合も多いのです。

 FP&A組織を立ち上げた日本企業では、CFO組織の中にFP&Aを配置している企業もあれば、経営企画部がFP&A機能を担っている企業もありますが、どちらでも構いません。目的を達成することができればよいのです。

 3つ目は、FP&Aを担う人材のバックグラウンドの違いです。米国では大学や大学院で会計・経営を学んだ人、MBAやCPAを取得した人がFP&Aになります。

 一方、日本ではそのような人材は多くありません。そもそも、日本企業の多くは新卒一括採用で、大学での専攻を問わずさまざまな職種に配属され、職種をまたいだローテーションが行われます。

 日本企業においては、FP&Aになりたい方であれば誰がなってもいいのです。経理、経営企画、事業管理のほかにも営業やあらゆる職種の方が、その事業知識と経験を活かしてFP&Aになっています。ただし、FP&Aはファイナンスのプロフェッショナルですから、ファイナンスや経営・デジタルの学習をすることは必要になります。