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2023年3月、東京証券取引所が上場企業に資本コストや株価を意識した経営への改善を要請したことで、PBR1倍割れ企業は減少傾向にある。しかし、企業価値算定のコンサルティングを行うプルータス・コンサルティング代表取締役社長の野口真人氏は「多くの企業は自社の本源的価値を把握できておらず、十分な改善策を打てていない」と指摘する。経営者は資本コストや株価をどのように理解し、どのような対応を進めるべきなのか──。2025年4月に著書『資本コスト経営のすすめ なぜあなたの会社はPBR<1倍なのか』を出版した同氏に、話を聞いた。
資本コストが意味するのは「投資家の期待リターン」
――著書『資本コスト経営のすすめ』では、経営者が資本コストや株価をどのように理解し、対応すべきか解説しています。資本コストとは、どのような指標と理解すべきでしょうか。
野口真人氏(以下敬称略) 資本コストとは、投資家が企業に期待するリターンのことです。「コスト」という名称のため日本の経営者は避けがちですが、投資家の視点から考えると「投資家の期待リターン」と呼び方を変えてもよいくらいだと考えています。
投資家にとって、経営者とは株主から経営を委託された存在であり、ファンドマネージャーのような役割を担っています。経営における目標の筆頭が資本コストとなるため、投資家が何パーセントのリターン、つまりどれくらいの資本コストを求めているかを知らずに経営はできません。資本コストを把握することは、経営の基本と言えるでしょう。
――資本コストが大きければ、得られるリターンも大きいということでしょうか。
野口 資本コストの大小は、企業の良しあしを表すものではありません。国債に投資するかビットコインに投資するかで期待利回りが異なるように、その企業のビジネスモデルを反映して決まるものです。それよりも、「リスクの高さが適切に資本コストに反映されているか」が重要となります。
堅実なビジネスを展開している企業であれば、投資家も低いリターンしか求めないでしょう。対照的に、スタートアップ企業のような相対的にリスクが高いとされる企業に対しては、高い利回りを求めます。
リスクとリターンは釣り合わなければならないため、高リスクのビジネスを展開している企業には高いリターンが求められるのです。経営者はこの関係性をしっかりと把握する必要があります。







