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パーパス経営、ジョブ型雇用、自律分散型組織――経営やマネジメントに関する多様なキーワードが広まり、企業に対する国や社会からの要請も増え続けている。そうした中で「企業はバズワードに飛びつくものの、『手段』が『目的化』するケースが多発している」と警鐘を鳴らすのは、リンクアンドモチベーション会長の小笹芳央氏だ。2025年4月に著書『組織と働き方の本質 迫る社会的要請に振り回されない視座』を出版した小笹氏に、環境変化の本質を捉え対応するために必要な観点について聞いた。
欧米模倣の「ジョブ型雇用」から脱却せよ
――著書『組織と働き方の本質 迫る社会的要請に振り回されない視座』では、多くの日本企業が取り組むジョブ型雇用と「本来のジョブ型雇用」が異なる点を指摘しています。この点について経営者はどのように理解し、何に注意しながら取り組むべきでしょうか。
小笹芳央氏(以下敬称略) ジョブ型雇用とは、一人ひとりの職務を明確にして責任の大きさと成果で報酬を決める雇用システムのことです。
最近は、「専門人材の確保」「働き方の多様化」「年功序列・終身雇用の限界」などを背景として、日本企業においてもジョブ型雇用に移行しようとする企業が増えています。しかし実際には、解雇法制が厳しく関係解消ができない中で、ジョブ型雇用を導入することで新たな価値を生まない人材の給料を下げ、その分を新たな価値を生む人材に振り分けたいというのが、企業の本音ではないでしょうか。
本来のジョブ型雇用というのは、「仕事(ジョブ)に値段」をつけ、その仕事を遂行する人が誰であろうと同じ報酬を払う仕組みです。たとえば、飲食店であれば「料理長はいくら」「ソムリエはいくら」「ホールリーダーはいくら」といった形で、誰が担当しても仕事内容に応じて同額の給料が支払われる形です。
しかし、日本企業の場合、そのような雇用形態になっていません。ジョブ型という名目ではあるものの、「この仕事であれば、これくらいの給料レンジ」と幅を設けて、年功序列型の色合いも若干残しています。
つまり、日本企業は収益を生まない資本を入れ替えることができないため、苦肉の策として「日本版ジョブ型雇用」というものが出てきたのです。
そもそも本来のジョブ型雇用は日本に根付かないと思います。これまで日本は欧米の経営手法や考え方を数多く採り入れてきましたが、それが経済成長に結びついていませんよね。表面的なものをまねするのではなく、それぞれの企業が大切にしたいことを見つめ直し、それに沿った人事制度を作るべきです。







