リンクアンドモチベーション会長 小笹芳央氏(撮影:冨田望)
2023年より上場企業約4000社を対象に人的資本の情報開示が課せられた。だが、一部を除いて「どのような事項を開示するか」は各社の判断に委ねられている。そのため「開示のための新たな業務が発生し、多くの企業が社内の混乱や軋轢(あつれき)に頭を抱えている」とリンクアンドモチベーション会長の小笹芳央氏は指摘する。人的資本経営の本質を捉え、人的資本開示を企業価値向上につなげるためには、どのような視点が必要なのか。2025年4月に著書『組織と働き方の本質 迫る社会的要請に振り回されない視座』を出版した同氏に話を聞いた。
「トレンドワードの表層部分」に惑わされてはいけない
――著書『組織と働き方の本質 迫る社会的要請に振り回されない視座』では、経営やマネジメント、働き方などに関するトレンドワードにとらわれず、核心を捉えることの重要性を述べています。今回どのような理由から本書を執筆したのでしょうか。
小笹芳央氏(以下敬称略) トレンドワードは流行り廃りを含めたくさんありますが、多くの企業がその表面的な部分にばかり飛びついてしまい、本質部分に注目していません。私もこれまで手段が目的化してしまっている事案をたくさん見てきました。
「このままでは経営者や管理職層、働く人々が徒労感や無力感に襲われてしまうのではないか」という憂いと、「日本企業の国際競争力がさらに低下してしまうのではないか」という危機感を抱くようになりました。
私の過去の経験や現在の立場上、どうしてもこのまま世の風潮に対して沈黙していてはいけないという感情に突き動かされたことが、本書を執筆することになった理由です。
そして、ちょうど私が人事の領域で40年目を迎えたタイミングということもあり、人事や組織、マネジメントのトレンドワードの本質部分に切り込み、そこに対する問題提起をしたい、という思いがありました。
企業に寄せられる社会的な要請にどう向き合っていくべきか、労働市場の変化にどう適応していくべきか、どうすれば組織の変革ができるのか──。そのような悩みを抱いている経営層や管理職層の方に、本書を通じて解決の糸口を見つけていただきたいと考えています。







