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 かつては「地方の一中小企業」に過ぎなかった日亜化学工業。なぜ同社は30年で売上高を30倍に伸ばし、世界的LEDメーカーへと成長することができたのか。成長力と収益力の源泉はどこにあるのか。2025年4月に著書『技術者天国 日亜化学工業、知られざる開発経営』を出版した日経クロステック編集委員の近岡裕氏に、日亜化学工業の競争力の秘密や、知られざる同社の知財部門の戦略的な役割について聞いた。

日本企業が競争力を失った根本要因

──書籍『技術者天国 日亜化学工業、知られざる開発経営』では、売上高5000億円規模の世界的LEDメーカーへと急成長を遂げた日亜化学工業の秘密をひもといています。どのような理由から同社をテーマに選んだのでしょうか。

近岡裕氏(以下敬称略) 日本の製造業やそこで働く従業員の方々に元気になってほしい、そのように考えたことが一番の理由です。付加価値の高いものづくりで業績を回復してほしいと思っています。

 私は日経BPの記者として、製造業一筋で28年間取材をしてきました。振り返ると、業界の「衰退の歴史」を追ってきたように感じます。2000年以降、中国を筆頭に新興国の製造業が力をつけてきました。価格競争に陥った多くの日本企業は、競争力を失っています。

 なぜ、日本の製造業は太刀打ちできなくなってしまったのでしょうか。それは「付加価値を生み出せていないこと」に尽きると考えています。そこで、「どうすれば付加価値の高い製品を生み出せるのか」と悩む多くの日本企業にヒントを提供できる企業はないかと考え、探し続けてきました。

 日本の製造業の中には、世界の勝ち組といえる企業もあります。トヨタ自動車やダイキン工業などはその代表格でしょう。彼らから学ぶべき点はたくさんありますし、これまでも取材を続けてきました。しかしながら、「それはトヨタだからできること」「うちには無理」といった諦めの言葉が聞こえてくることがあります。

 そこで思い至ったのが日亜化学工業です。同社は30年前まで、徳島県阿南市という地方の中小企業でした。付加価値の高いものづくりにこだわった結果、現在は売上高5000億円を超える世界的企業へと成長しています。

 そして、同社がLEDの開発をしていることは知っていても、なぜ付加価値の高いものづくりを実現できるのか、解説した本はありませんでした。そこで、日亜化学工業が世界的企業に成長するに至った「知られざる開発経営」をテーマに書籍化しようと考えました。