写真提供:日刊工業新聞/共同通信イメージズ

 九州発のディスカウント大手トライアルが、2025年7月に西友を3800億円で買収した。のれん代や店舗改装費といった重いコスト負担を抱えながらも、AIカメラや顔認証レジなど先進的なリテールテックを武器に「流通情報革命」を掲げる。日本の小売DXの未来を切り開けるか。『世界のDXはどこまで進んでいるか』(新潮新書)の著者・雨宮寛二氏が解説する。

西友を2625億円も高い価格で買収したトライアル

 九州発のディスカウントストアであるトライアルホールディングス(トライアル)が、2025年7月に、西友の買収を完了した。買収額は3800億円で、西友の純資産額が1176億円(2023年12月期)であることを踏まえると、2625億円も高い価格で買収したことになる。

 トライアルは、この差額分を、ブランドや販売ノウハウなど西友がこれまでに積み上げてきたコアコンピタンス(競争力の源泉)を、超過収益力*として評価したことになるが、今後は“のれん代”として、均等償却していく必要がある。

*現時点において測定し得ない潜在的な企業価値

 トライアルとしては、5年で償却していく意向を示しているが、その場合、1年に525億円の費用が計上されることになるので、西友の営業利益235億円(2024年12月期)と比較すると“のれん負け”することになり、現実的ではない。

 日本の会計基準では、のれん代は20年以内の期間で均等償却することになっている。仮にトライアルが10年で償却することになれば、年間の費用は約262億円となり、西友の営業利益とほぼ同額になるので、はるかに現実的な解であると言える。

 こうした買収に伴う費用に加え、今後、トライアルは、西友との経営統合を進めていくに当たり、西友の店舗老朽化に伴う改装費などをコストとして負担していくことになる。