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 ゲームに使われてきた「やりたくなる」気持ちを生む理論や技術を活用し、企業や社会が抱える課題の解決につなげる──。そんな新たなデザインのアプローチ「ゲームフルデザイン」を提唱するのが、セガ エックスディー 取締役 執行役員COO の伊藤真人氏だ。2025年4月に著書『ゲームフルデザイン 「やりたくなる」を生み出すゲーミフィケーションの進化』を出版した伊藤氏に、企業がゲームフルデザインに取り組む際のポイントや、ベネッセコーポレーション とセガ エックスディーの共同事業における実例について話を聞いた。

施策は「最小単位まで引き算」することが重要

──著書『ゲームフルデザイン 「やりたくなる」を生み出すゲーミフィケーションの進化』では、ゲームフルデザインの考え方や具体的な手法、取り組み例について解説しています。ゲームフルデザインを活用して、より本質的な課題解決を目指す上では、どのような点を意識すべきでしょうか。

伊藤真人氏(以下敬称略) 多くの企業では、複数の事業課題を一度に解決しようとするあまり、ユーザーの心理を無視した「企業目線の独りよがりな施策」に終始しているように感じます。結果として、期待した成果を得られていないケースが少なくありません。

 例えば、「既存顧客である会員からの収益獲得機会を増やしたい」という課題があったとしましょう。そこで会員の体験価値を高めようとする際、顧客ロイヤリティの向上を狙った「ロイヤリティプログラム」を導入する企業が多いのではないでしょうか。こうした状況で選ばれがちなのが、特典の提供やポイント付与といった施策です。

 しかし、「そもそも自社の顧客におけるロイヤリティとは何か」「ロイヤリティの高いユーザーとはどのような人物か」といった定義が曖昧なままでは、特典やポイント付与によってユーザーが期待する行動を取るかどうかも不透明です。当然ながら、課題の解決にもつながりづらいでしょう。

 ここでゲームフルデザインを実装する場合には、まず「ロイヤリティの定義」を行います。「購買金額が高いこと」「来店頻度が多いこと」といった尺度を揃えることで、促したい行動を明確化できるからです。その上で、解決すべき課題を一つに絞り込み、施策を最小単位にまで分解することが大切です。施策の内容を「1ユーザーの1アクション」に落とし込むことで、より具体的な欲求を刺激し行動を促すことができます。

 このような基本を徹底して、複数の施策を段階的に積み上げることで、ロイヤリティ向上を図ることが重要です。