
オフロードを早く走るディフェンダーを体験して
ランドローバーのディフェンダーに「OCTA」というニューモデルが加わりました。最高出力635馬力の4.4リッターV8ツインターボエンジンに最高出力14kWのモーターを組み合わせたMHEV(マイルドハイブリッド)の超高性能車です。オフロードでの速さを追い求めています。
今までランドローバーは「tread lightly」という標語とともに、オフロードへは、なるべく軽く、ゆっくりと乗り入れることを謳ってきました。OCTAの登場は新しい傾向です。
それには背景があって、ランドローバーはディフェンダーで2026年のパリダカールラリーに参戦するからでした。パリダカールのようなラリーレイドで勝利を収めるためには、“軽く、ゆっくり”というわけにはいきませんよね。

北軽井沢の一般道と、伝説的な旧・浅間火山レースコースで乗ったディフェンダーOCTAは、オンロードでもオフロードでも速かった。「6-Dダイナミクス」という専用サスペンションによる効能も大きく、速いだけでない快適性や扱いやすい操縦性なども備えていました。2099万円という価格も納得できました。

もはやリアビジョンシステム
走行パフォーマンスと同じくらいに驚かされたのが、リアビューカメラによる後方視界の鮮やかさです。

OCTAに装備されていたのは鏡によるルームミラーではなく、形状は同じですがルーフ後端に組み込まれた小型カメラが映す映像を映し出すモニターです。鏡とは、原理からしてまったく違うものです。

今までのルームミラーが「鏡」に映ったものをドライバーに見せていたのに対して、カメラが撮影している映像をリアルタイムで横長のモニターに映し出しています。
その間には映像をデジタル変換し、補正などを行うプロセッシングユニットが介在している、いわば「システム」と呼べるものです。「リアビューシステム」、「リアビジョンシステム」と呼んでも良いでしょう。
リアビューシステム自体は以前から存在して、装着されているクルマは何台も運転したことがあります。でも、どれも見え方が不自然でした。映像が鮮明な場合もあれば、不鮮明な場合もあって落差が大きかった。また、映し出されている手前のものと奥のものとのピントの合い具合などが状況によってコロコロ変わっていました。視覚的に安定していなかった。
鏡が現実をそのままに映しているのに対して、どうしてもカメラで捉えた映像が加工されて映されるので、人工的な癖のようなものが拭えませんでした。
ちょうど、今から20年ぐらい前に35ミリのフィルムカメラがデジタルカメラと入れ替わろうとしていた時の状況を思い出します。あの時も、「デジタルだから不自然」という評価が多く、僕も素人ながら「デジカメは人工的な見え方をする」という感想を抱いていました。
クルマのルームミラーにリアビューカメラが用いられるようになっても、樹脂製のタブを押し引きして鏡と切り替えられるようになっていて、切り替えて鏡を使っていました。
ところが、このディフェンダーOCTAのものからはそうした不自然さは一切感じられず、とても良く見えるのです。鏡だと暗く見えてしまう日影に入ってもデジタルで補正しているのか、後続車や対向車などの輪郭がはっきりと浮かび上がっています。
ここも現代の進化したカメラやスマートフォンで撮った画像や動画などを容易に補正したり修正したりできることと似ています。
手前に映っているものと奥に映っているものも同じ明瞭さです。日常用のカメラのf値を増やして絞り込み、被写界深度を伸ばしていった時の感覚を連想しました。上手くデジタルで補正して、確実に鏡よりも良く見えていました。まさに、デジタルの力です。
視野の広さもカメラならではです。鏡のルームミラーでは、手でユニットを動かしたりしないと見えなかった端の部分が最初から十分に見えています。また、後席に大きな人が座り、トランクに大きな荷物を積んでもルーフ後端から映しているので視界を遮ることがないのも、良く知られたカメラ方式のメリットです。
実はレースで磨かれた技術
OCTAだけでなく、追加されたD350(ランドローバー各車に2024年に追加されたグレード)にも26年モデルのレンジローバースポーツにも同じリアビューシステムが装着されていて、変わらず良く見えました。
いずれも大型SUVでカメラのメリットを体験できましたが、SUV以外の中小型のクルマでもメリットは大きいのではと確信しました。おそらく、運転支援機能との連携面でも利点は大きいでしょう。
このディフェンダーOCTAやD350、レンジローバースポーツの3台に装備されていたカメラ+デジタルミラーのリアビューシステムはアメリカのジェンテックス(GENTEX)製です。自動防眩ミラーで世界シェア9割を持つメーカーで、リアビューシステムも年間300万個以上出荷しています。
ちなみに、今年のルマン24時間レースを制したフェラーリとポルシェとキャデラックなどトップ5台にはすべてジェンテックス製のリアビューシステム(ジェンテックスではFDM、Full Display Mirrorと呼んでいます)が装備されていました。
ルマンでのメリットとして考えられるのは、広い後方視野、夜間走行でのクリアな後方視界確保、振動の悪影響の制御、ボディの軽量化と造形の自由度が増すことによる空力性能の向上、ピットイン時の清掃タイムロス軽減などでしょうか。レースは実験の場なので、ルマンのトップ5台に使われたという事実は市販車への採用の説得力を増しますね。