Seeing is believing?

 3台のランドローバーに乗って、最新のカメラ方式のリアビューシステムの効能の大きさを体感したわけですが、実はさらに先に進んだクルマがすでに発売されているのです。

 ボルボの上級ブランド「ポールスター」の4ドアセダンEV「Polestar 4」には、リアのガラスが存在しません。リアガラスがあるべきところはボディと同じスチールと樹脂で覆われて、後端中央にはカメラのレンズが覗いています。

Polestar 4

 乗員が首を曲げて後ろを振り返っても外は見えません。運転中の後方のビューはドライバーが鏡で目視するのではなく、カメラとデジタル処理された映像に100%任せてしまったのです。後方視界を全面的にカメラとデジタルビューシステムに依拠してしまいます。

Polestar 4のインテリア

 4月に出掛けた上海のモーターショーに展示されていた中国の自動車メーカー「アバター」のEV「AVTR06」や「同12」も同様でした。リアガラスが存在しません。

AVATRのリアビューカメラ
AVATR 06

 これは画期的なことではないでしょうか。

 さらに、マイアミやパリなどに続いて5月に東京でも発表されたジャガーのコンセプトカー「TYPE 00」にもリアガラスが存在していませんでした。TYPE 00はまだスタイリングを表現する段階のものなのですが、現場のスタッフに確認すると「おそらくガラスはなく、カメラ方式だろう」と明らかにしてくれました。

JAGUAR TYPE00

 リアガラスを設けず、後方の視認はカメラによるデジタル処理された画像に完全に任せるメリットはルマンカーから想像できるでしょう。市販車では、安全を確保し、ドライバーの肉体的な負担を軽減することが最大のものとなります。

 「百聞は一見に如かず」の言葉の通り、僕たちはこれまで「自分の眼で確かめる」ということを重要視して、大袈裟に言えば生きても来たわけです。クルマの運転など際たるもので、安全のための大原則は「目視による確認」でした。発進、進路変更、合流や進入などに限らず、運転中のあらゆる局面でドライバーが自分の眼で見て確かめることによって安全が担保されます。逆に言えば、自分が見ていないものを根拠に判断してはいけないのだとも言えます。

 しかし、カメラとデジタルビューシステムは人間を超越し、人間には不可能な視覚能力を備えてしまいました。

 自分の眼で見ることには変わりないのですが、人間以上の能力、つまりデジタルによって補正あるいは拡張された像をモニター上に見ることになるわけです。ダイレクトか、加工されたものかの違いです。

 自動車が発明されてから139年間ずっと変わらなかった鏡による後方視界の確保が初めて大きく変わりつつあります。革新が静かに進んでいるのです。