
2018年に「旭硝子」から社名を変更し、「両利きの経営」による事業の多角化が進む大手素材メーカーAGC。経営トップが掲げる「人財のAGC」を実践する、人的資本経営の先進企業としても知られる。同社の人財戦略とは、いかなるものなのか。
元ロート製薬取締役CHRO(最高人事責任者)の髙倉千春氏がAGCの人事戦略統括担当部長・井原有紀氏を迎え、人事の体制や戦略、現在の取り組みまで、その全容を探る。「人事のプロ」同士の議論によって明らかになる「これからの人事パーソン」とは?
「人財のAGC」を支えるHRの取り組み
髙倉千春氏(以下、敬称略) 井原さんはソニー、アマゾンジャパン、ノバルティス ファーマを経て2022年3月にAGCに入社し、現在は人事部人事戦略統括担当部長としてコーポレートガバナンス、経営人財育成、組織開発、ダイバーシティ推進などを担当されています。まず、AGCの人事部門はどのような体制をとっているのでしょうか。
井原有紀氏(以下、敬称略) AGCは2024年8月現在、グローバルで5万7000人弱の従業員を抱え、「建築ガラスアジア」「建築ガラス欧州」「オートモーティブ」「電子」「化学品」「ライフサイエンス」という6つの社内カンパニーとAGCセラミックスなどの関係会社が中心となって事業を展開しています。
既存の「コア事業」と成長分野の「戦略事業」を両輪とする「両利きの経営」を実践するべく、組織構造として、事業を所管する縦軸としてのカンパニーと、グループ全体のガバナンスを所管する横軸としてのコーポレート部門を置いています。これにより、事業ごとの独立性を確保しながら、AGCグループとしてのシナジーを最大化することを目的としています。
それに伴い、人事部門の体制も横軸のコーポレート部門としての「コーポレートHR(全社機能部門の人事)」と、縦の事業軸を支える「カンパニーHR(事業部門の人事)」「拠点HR(事業拠点の人事)」に分かれています。コーポレートHRは、グループ全体の人事戦略の立案・実行を担うとともに、国や地域ごとにHR機能を設け、各地域特有の課題に取り組んでいます。