自動化とデジタル化による組み付け精度の向上と組み込みミスの激減ぶりによって、ユーザーの購入後のトラブルは確実に減っていると、僕は確信しています。ウォルフスブルグ取材の約1年後に取材したミュンヘンのBMW本社工場も状況は変わらず、自動化とデジタル化は進行していました。
BMW本社ミュージアム(工場側から撮っているので工場そのものは写っていません)
「製造工程の自動化は80%です」
BMWの自動化はフォルクスワーゲンを上回っていました。そして、自動化された大型の工作機械は両社とも同じ2社のものを使っていました。
厳密なデータなどを援用するものではなく、あくまでも上記の個人的体験に基づいた印象となりますが、やはり最近の輸入車が以前よりも壊れなくなったことは確かだと感じています。製造後の完成検査などにもデジタル化は及んでいるでしょうから、その点も製造品質向上に含まれるのだと考えられます。
さらにBMWは2026年夏のノイエクラッセ立ち上げに向けて、ミュンヘン工場にボディショップ、組み立て、および関連する生産ロジスティクス用の新しい生産ホールを3つ建設している。写真はBMWのメディアサイトから
クルマは賢くなっている
二つ目は、製造後のクルマの自己判断機能とインテリジェンス化です。718ボクスターでは、ときどきメーターパネル右側のマルチファンクションディスプレイにクルマの状態を示す情報がアラートのかたちで表示されることがあります。
こんな表示、あなたのクルマでも出るのでは?
エンジンオイルの交換時期は毎年11月になると表示され始めてきます。1年ごとの12か月点検や車検などを12月に行っているので、前回の交換からの日数や走行距離などから算定して表示されていると工場から教わりました。12か月ごとの点検時期が迫っていることも知らせてくれます。
僕の年間走行距離も、購入以来、年間平均して1万km弱で安定しているので同じ時期に表示が表れるのでしょう。その通りに、入庫して交換しています。

アラートに助けられたのは、知らない間にタイヤの空気圧が低下していた時でした。アラートがなかったら、気付かずに走り出してしまって、最悪な場合、スピンや脱輪などタイヤに起因するトラブルを引き起こしていたかもしれません。
実際に、この時は左後輪がパンクしていることを教えてくれました。ガレージから出すことを諦めて、ゆっくりとバックして戻し、担当セールスパーソンに善後策を電話で請いました。
パンクの話は本連載1回目でも詳しく語られています
986型ボクスターには応急用スペアタイヤが付属していましたが、718ボクスターにはありません。代わりのパンク修理キットは使うな、と彼はクギを刺してきました。
スプレー式の補修剤をタイヤ内部に注入すると、ノリのようにベタベタとホイール全面にこびり付き、空気圧を感知するセンサーも交換しなければならなくなるからです。
「その代わり、カネコさんはポルシェアシスタンスに加入しているのだから、無料で積載トラックを利用できます。それで工場まで運んでください」
そのアドバイスに従って、718ボクスターをトラックに載せて工場に運び、然るべく措置を施して事なきを得ました。
こうした予防安全的なシステムの活用は、今後はさらに進んでいくのではないでしょうか。自動車の電動化はパワートレインだけにとどまらず、走行全体をさまざまな機能によって制御していくことになるからです。リアルタイムで走行を把握しながら、各機能を細かく管理していく必要が出てきます。それによって不具合や異変なども素早く見付けられます。
718ボクスターの車検で想定外の消耗やトラブルなどが発見されず、定期的な消耗品以外は交換の必要性がないのでごく短時間で完了してしまった理由は、“最近のクルマの壊れにくさ”にあるに違いないと考えています。
