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 大企業の経営幹部たちが学び始め、ビジネスパーソンの間で注目が高まるリベラルアーツ(教養)。グローバル化やデジタル化が進み、変化のスピードと複雑性が増す世界で起こるさまざまな事柄に対処するために、歴史や哲学なども踏まえた本質的な判断がリーダーに必要とされている。本連載では、『世界のエリートが学んでいる教養書 必読100冊を1冊にまとめてみた』(KADOKAWA)の著書があるマーケティング戦略コンサルタント、ビジネス書作家の永井孝尚氏が、西洋哲学からエンジニアリングまで幅広い分野の教養について、日々のビジネスと関連付けて解説する。

 今回は、約100年にわたりアメリカの若き芸術家たちに熱狂的に読み継がれてきた『アート・スピリット』を取り上げる。ビジネスとアートの共通点、そして自らの能力をとことん生かし、比類なき成果を生み出すために欠かせない考え方とは?

アートとビジネスの本質的で意外な共通点

『アート・スピリット』(ロバート・ヘンライ著、野中邦子訳、国書刊行会)

 ビジネスとアートは一見真逆の世界だが、本質的な共通点がある。これが分かれば、ビジネスもアートも一段と深い世界になる。このことを学べる名著が、1923年に刊行され芸術家を目指す若者に愛読されてきた定番の教科書『アート・スピリット』(ロバート・ヘンライ著、野中邦子訳、国書刊行会)だ。本書は「創造の本質」を教えてくれる一冊である。

 1980年代に活躍し31歳で早世したストリートアートの先駆者キース・ヘリングは「この本はぼくの人生をすっかり変えてしまった」、さらに人気テレビドラマ『ツイン・ピークス』などを手掛けた映画監督デイヴィット・リンチは「本書はアート・ライフの規範を定めるバイブル」と語っている。

 本書は実業家にも強烈なインパクトを与えてきた。ツイッター(現X)共同創業者のジャック・ドーシーもその一人。ドーシーは2013年に開催されたスタートアップスクールでの講演で、本書を携えて登壇。起業家の卵たちに向かって本書の一部分を読み上げ、解説を付けるという異例の講演を行った。この講演でドーシーが最後に引用したのが本書の次の一節だ(講演はYouTubeで公開されている)。