こうした減速・停滞について、要因をいくつかあげることができる。たとえば、車両価格が思うように下がらないなかで、補助金の終了によって価格面でのメリットがなくなり、市場の購買意欲が低下したこと。また、充電インフラの整備が進まないことに対する懸念、充電時間や航続距離など性能自体に劇的な伸長が見られないことへの不満もあるだろう。
このような市場の変化を踏まえて、これまでEVに積極的な投資姿勢を見せてきた自動車の完成車メーカー(OEM)には軌道修正の動きも出てきた。
米フォード・モーターは2024年8月、EV戦略を見直し、大型SUV(多目的スポーツ車)のEVの開発を中止すると発表した。ハイブリッド車に切り替え、その見直しでEV向けの年間設備投資の比率は従来の40%から30%に低下するとしている。
独フォルクスワーゲンは2024年9月、ドイツ国内の一部工場の閉鎖を検討していることを明らかにした。EV需要の伸び悩みと中国メーカーの輸出強化などが背景にある。同社が本国ドイツで工場閉鎖に踏み切れば創業以来初めてとなる。
スウェーデンのボルボ・カーは、2030年までにすべての新車をEVにする計画を撤回すると発表した。新車の9割以上をEVかプラグインハイブリッド車(PHV)とし、残り約1割以下をハイブリッド車(HV)にする新たな目標を掲げた。
さらに、業界トップの米テスラですら工場新設を先送りするなど、EV投資を見直す動きは自動車業界全体に広がっている。
このように、これまでEVシフトのトレンドを踏まえて事業戦略の構築を進めてきたOEM、および自動車部品の供給会社(サプライヤー)などの自動車業界各社は、足元の減速によって将来の見立てを修正し、投資戦略の練り直しを求められることになった。
EV化の大きな流れは変わらない
では、このような現在の状況を、どうとらえるべきなのか。
まず、日系OEMにとっては比較的好ましい状況ということができるだろう。事実、EV普及の減速によって、ハイブリッド車の需要が米国を中心に伸びている現実がある。EVへの対応が遅れていた日系OEMにとっては好都合だ。さらに歴史的な円安も相まって足元の財務状況はよい方向にある。
しかし、この状況に安心していてよいかといえば、そうではない。BCGは現在のEVの減速は一時的なものと考えている。当初の予測よりは3~5年程度遅れることになるだろうが、長期的に見ればEV普及の大きな流れは変わらないだろう。