もうひとつTikTokが特徴的なのは、数十秒の短尺の動画がメインというプラットフォームの特性を活かし、楽曲のサビやポイントとなるパートを先行して投稿し、視聴者の反応がよかったものをフル音源化していくという手法である。

 乃紫だけでなく、第4章で取り上げるimase 《NIGHT DANCER》や、tuki.《晩餐歌(ばんさんか)》も同じような制作の手法から人気を得た楽曲だ。これは、TikTokのアルゴリズムを利用したテストマーケティング的な側面が大きいと思うが、もうひとつ、利用者の消費行動に寄り添った一面があると推察する。

 TikTokはその投稿ハードルの低さから一般人の投稿も多く、アーティストが簡易的な一部の楽曲を投稿することに対するユーザーの受容性は高い。まだ無名のアーティストを、自分が発掘したアーティストとして、コメントを残したり応援をしたりして、有名にしていくという体験をすることができる。

 楽曲のフル化や新曲の投稿とともにアーティストがどんどん成長していく姿をそばで見守ることができるのだ。オーディション番組で、デビュー前から一定数のファンをつけるという手法と同じことがTikTokでは起こっている。

 TikTok内で楽曲が「使われる」だけではなく、TikTokを飛び出してストリーミングなどでも聴かれるアーティストは、楽曲そのものに加え、高い熱量を持つファンがついているという特徴がある。

 実際、TikTok以外の音楽配信サービスでも聴かれているアーティストは、TikTokに限らずソーシャルメディアのフォロワー数をある程度獲得できていることが多い。

「あのサビがフル化されたら聴きたい」「次の曲ができたら聴きたい」「アーティストがブレイクする瞬間が見たい」――熱量の高いファンを作るという公式のひとつがこのような制作手法になっているのではないか。

 こうやって楽曲をただ使って消費するのではなく、楽曲そのものを楽しんでくれるファンによって、YouTubeやストリーミングの再生回数が上がり、複合ランキングで上位に入り、さらに広い層の認知と再生数増加を果たすことができるようになる。

 また、ショート動画などでテストマーケティングをしながらヒットを生み出すという流れは、音楽業界の新人発掘手法も大きく変えてしまったという。

 新人開発の担当者は、TikTokを日常的にチェックしたり、従来のような丁寧なアーティスト発掘や育成ではなく、スピード重視でまずはチャレンジし、そのデータをもとにPDCAを回すという方針に舵(かじ)を切っているという。

<連載ラインアップ>
第1回 あいみょんの「マリーゴールド」は、なぜ“1億回再生”を達成できたのか?
■第2回 乃紫(noa)の「全方向美少女」が押さえた“ヒットの公式”とは?(本稿)
■第3回 生活者が思わず食いつく ドラマ「逃げ恥」と星野源「恋」のヒットを生んだフィードコンテンツとは?(1月8日公開

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