■〈情報源〉「使いやすい」「遊びやすい」「真似をしやすい」楽曲
ショート動画で特徴的なのは、表情が見やすい上半身を中心に振り付けをした「踊ってみた」動画だろう。誰でも真似しやすく、表情も良く見えるような簡単なものが多い。ショート動画に特化したポイントとなる振り付けを考案する人気振付師も登場し、振付師アカウントから人気に火がつくこともよくあるパターンだ。
TikTokにおいて楽曲に振り付けがつくことは、バイラルのひとつの条件とも言えるようになっている。実際、TikTokが発表しているその年よく聴かれた楽曲を見ると、その半数は振り付けをカバーする投稿によって再生回数が増えた楽曲だということがわかる。
YouTubeやニコニコ動画、ソーシャルメディアの潮流の中で、すでにヒットの要件であった「遊びやすい」「真似をしやすい」というポイントが、さらに重要視されているのがショート動画だ。
では残りの楽曲はどんなものなのか。TikTokでは、「歌ってみた」「踊ってみた」ジャンルの他にも、多数のジャンルの動画が存在する。
Vlog(動画ブログ)やライフハックを紹介する動画などのBGMとして使いやすい曲、そのときの感情や雰囲気を表しやすい曲というものも好まれ、ショート動画の時代、誰しもがクリエイターになれる環境の中で、音楽のヒットには、「使いやすい」という視点が重要になった。
そして、TikTokのアルゴリズム攻略法のひとつとして、人気の音楽や流行りの曲を使用するとおすすめに乗りやすくなる傾向があると言われている。こうして、自らの動画に「みんなが使っている曲」を使うことで、バズるコンテンツが生まれる。つまり、UGCがUGCを呼び、音楽が広がっていくのだ。
■〈アーティスト〉熱量の高いファンを獲得して、TikTokから飛び出す
ここで、「使いやすい」「遊びやすい」「真似をしやすい」というTikTokでのヒットの公式を押さえた乃紫(のあ)というアーティスの事例を見てみよう。
乃紫自身はインタビューにて、2024年TikTok上半期トレンド大賞のミュージック部門賞に輝いた《全方向美少女》を、「完全にTikTokのUGCを意識した曲」だと語っている。同曲は、「正面で見ても 横から見ても 下から見ても」というサビの歌詞に合わせ、スマホのインカメラで自身の顔を正面、横、下からのアングルで映す動画によって人気になった楽曲だ。
振り付けや口パクをすることもなく、音楽に合わせて自分ひとりでカメラのアングルを動かすだけで流行りの動画を撮影できるという手軽さや、Kポップアイドルたちによる投稿も相まって、多くのUGCを生み出した。