「うちらしい酒とは何か」

 近年、コロナ禍で酒の出荷がほぼストップしてしまったことから、酒造りに悩み、「うちらしい酒とは何か」を根底から考えた、と小森さん。そこであらためて既存の設備でできること、酒質を高めるためにできることを全部やろうと考えた、と振り返る。

「洗米は少しずつ分けて水を吸わせる限定吸水の方法を見直すなどなど、洗米から瓶詰め、火入れまで、それまで以上に手を抜かずにやろうと取り組みました」

コロナ禍のなかで悩み、酒造りの工程を徹底的に見直した。「基本をコツコツと、ていねいに重ねています」と賢一郎さん

 従来、純米酒の原料米は佐賀県産の食用米を使用していたが、この「基峰鶴 純米 ひやおろし」(日本名門酒会の限定品)は、昨年から佐賀県生まれの酒造好適米「さがの華」を100%使用。食用米で造った純米酒はフレッシュさが際立つ一方、さがの華を使った純米酒は、はるかに深いうまみを引き出しやすく、ひやおろしの熟成感をよりいっそう表現できるという。ちなみに基山商店では1980年代後半から、父・小森純一さんが地元の契約農家とともに山田錦を作るなど、地元産の原料米にこだわってきた。

「酒造りは米とともにあるもの。地元農業としっかり向き合って、もっともっと基山町の農家の方々と一緒に米づくりに取り組んでいくような流れをつくりたいと考えています。基山町は自然に恵まれ、福岡に近く立地もいいんです。生まれ育ったこの土地の田んぼを維持していくための、ひとつの力になれればという思いがあります」

 そう話す小森さん。基山の自然風土とともに、酒を醸す。

佐賀県と福岡県と県境をまたいで、標高400m余りの基山がそびえる基山町。明治時代初期、この地で近隣の地主数名が共同で酒造りを始めたことが基山商店のルーツ。「基山を源とするこの弱軟水の伏流水によって、うちの酒らしいやわらかい酒質が引き出されていると思っています」