文=加藤恭子 撮影=加藤熊三 写真提供=基山商店

ひと夏越した純米原酒のひやおろしが、さらに円熟した深いうまみに。基峰鶴らしいフレッシュなガス感とシャープさで、余韻は軽やか! 佐賀県の酒米「さがの華」を100%使用。アルコール度数15度。「基峰鶴 純米 ひやおろし」(基山商店)※日本名門酒会の限定品 720ml  1623円

“熟したうまみ×ガス感”で、料理をランクアップ

 熟したバナナを思わせる、円熟した甘い香り。口に含めば、細やかな泡がぴちぴちと弾け、やわらかなうまみ、爽やかな酸味が広がり、心地よいほどシャープな余韻を残す。これは間違いない。どんな料理も一段ランクアップさせてくれる度量の大きさと、繊細さを兼ね備えた名酒。

「基峰鶴(きほうつる)」といえば、近年、心躍るようなフレッシュさとやわらかな味わいで日本酒ファンの注目を集める、佐賀県の基山商店の代表銘柄。なかでも純米酒は、そのフラッグシップともいうべき存在で、12月にはしぼりたての新酒が発売される。

 

“ひやおろし”の円熟味とフレッシュさが共存

(左)専務兼杜氏の小森賢一郎さん。2001年、東京農業大学応用生物科学部醸造科学科卒業。梅乃宿酒造で修業後、実家の基山商店に戻る。2015年に杜氏就任。右はともに蔵を支える姉の小森綾子さん

 ところで “ひやおろし”とは、春先にしぼられた新酒を火入れ(加熱殺菌)し、秋に再度火入れすることなく“冷や”のまま出荷される日本酒。夏の間に熟成させることで、新酒の若々しさがまろやかなうまみへと変化する。秋から冬にかけて、少しずつ瓶の中でもさらに熟成が進み、果実が甘く熟していくようにうまみが深まるのも魅力だ。

 杜氏の小森賢一郎さんはこう話す。

「しぼりたてのフレッシュ感をできる限り損なわないよう、もろみをしぼったら2日以内に瓶詰めし、低温で管理しています。さらにこのひやおろしもそうですが、限定流通の酒は、瓶詰めしてから昔ながらの湯せんで火入れしています。手間がかかりますが、発酵によって発生した炭酸ガスを瓶内にしっかり閉じ込められます」

熟成による深いうまみがありつつも、シュワッとしたガス感と酸味があって爽やか! ややスモーキーな穀物らしい香味も感じる。シャープな切れ味なので、天ぷらなど油分のある料理にもおすすめ