ラグジュアリーホテルの開業ラッシュに沸く大阪に、2024年8月『フォーシーズンズホテル大阪』がお目見え。広東料理のメインダイニング『江南春(ジャンナンチュン)』をはじめレストラン・バーの充実ぶりは早くも話題を呼んでいる。フォーシーズンズが日本で4番目の拠点としてなぜ今、大阪を選んだのか。大阪ならではのホテル運営とは。開業したてのホテルを訪問した。

フォーシーズンズホテル大阪 28階『GENSUI』の日本茶サロン『SABO』。インテリアデザインは『SIMPLICITY』

万博イヤーを前に、満を持して開業した西日本の新拠点

大阪のホテル事情が“激アツ”である。国内外のホテルチェーンが続々と新たなホテルを建設し、オープンラッシュが続く。大手の新たなプレミアムブランド、海外ブランドの日本初上陸など各施設とも話題性を競っている感があるが、8月にオープンした『フォーシーズンズホテル大阪』の開業には、ホテル関係者や愛好家たちがとりわけ熱い視線を注いでいる。日本では丸の内、大手町、京都に続く4軒目の『フォーシーズンズホテル』で、現在世界47か国に130のホテルとリゾートを運営している(2024年6月12日現在)。場所は、堂島エリア。観光やビジネスの拠点としてはもちろん、大阪の新しい顔の役目を果たす意味でもこの上ないロケーションだ。

写真中央が『フォーシーズンズホテル大阪』が入る『One Dojima』ビル。大阪(梅田)駅や北新地も徒歩圏内のロケーション

大阪ホテルの開業ラッシュの背景には、もちろん2023年以降のインバウンドの回復、そして来年、開催される大阪万国博覧会2025がある。しかしながら『フォーシーズンズホテル』の大阪進出は、かなり前から構想されていた」と、セールス&マーケティング部長の川井誠は話す。半世紀余りで世界的なホテルチェーンとして成長したが、「中規模のラグジュアリーホテル」という軸をぶらさず、低価格なサブブランドを持たず、“規模よりもクオリティ”のホテル経営を貫いてきた。アジア進出第1号が1992年に開業した『フォーシーズンズホテル椿山荘東京』(現ホテル椿山荘東京)であることから、日本というマーケットをどれだけ重要視しているかも想像に難くない。候補地やパートナー企業の選定に慎重を期し、機が熟し縁が実ったタイミングが万博開催と重なるとは、ホテルとしては吉兆であろう。

水の都・大阪を体感できるアクティビティも

江戸時代から米市場を基盤に栄えた堂島は、現在も金融・ビジネスの中心地。水路や古くからの橋が点在し、現代的な高層ビル群と歴史ある町並みが融合している。一歩路地を入れば、古くから続く家族経営の飲食店に出会える、大阪ローカルたちも愛着を抱くエリアだ。電通大阪支社跡地に建設された地上40階のビル『One Dojima』を、分譲マンション『ブリリアタワー堂島』と共有する、日本ではまだ珍しいレジデンス一体型の超高層複合タワーで、1~2階、28~37階が『フォーシーズンズホテル大阪』になる。

1階のレストラン&バー『ジャルダン』

この日は施設を一通り案内してもらい、おすすめのアクティビティを含むステイを体験させてもらった。

都市部のラグジュアリーホテルのアクティビティは“外国人観光者向け”という感が否めないが、堂島プライベートクルーズはぜひとも体験して欲しい。ホテルから船の乗り場までは徒歩約10分。水の都・大阪の美しさ、豊かさを、水上で体感できる。川岸で遊ぶ親子からゆっくり散歩をするご年配、カフェで寛ぐ若い人たちまで、誰もが船に向かって手を振ってくるフレンドリーさも大阪らしい。きりりと冷えたシャンパーニュが暑さにうだった体に心地よく染み渡り、夕焼けに染まる空もドラマティックで美しく、「船の帆をモチーフにした」と説明を受けた『フォーシーズンズホテル大阪』の外観は、なるほどその通り、アイコニックなビジュアルで夏の夕景に彩りを添えていた。

堂島プライベートクルーズの一幕。暮れ行く空が美しく、これまで知らなかった大阪の表情が見える

グローバルなゲストを迎える充実のレストラン&バー

クルーズを終えた我々を待っていたのは、37階『バー・ポタ』でのアペリティーヴォと、メインダイニング『江南春(ジャンナンチュン)』でのディナーだ。

世界的に注目のバーテンダーが率いる。大阪バーシーンのオルタナティブとして、ここから世界を目指す

『バー・ポタ』は、まだまだオーセンティックが主流、かつクローズドな印象がある大阪のバーシーンでは異色のキャラクター。眼下に大阪の絶景を望むオープンな空間で、クリエイティブなカクテル、レアなアイテムも揃うスピリッツを楽しむことができる。ヴィジター利用ももちろん可能。自身の大阪のアドレスにも早速追加した。

『江南春(ジャンナンチュン)』の内観。ライブ感あふれるオープンキッチンあり、ゴージャスな夜景あり

広東料理『江南春(ジャンナンチュン)』は、香港の『シャンパレス』をはじめ、香港、マカオのトップレストランで活躍したシェフ、レイモンド・ウォンが点心師や焼き物師ら“腹心”とともに招聘され、厨房を率いている。日本においては古くから、ラグジュアリーホテルの主力ダイニングとしてゆるぎない地位を確立している中国料理も、ここ数年、話題に挙がる店が少なかったが、今年3月にオープンした東京・麻布台ヒルズの『ジャヌ東京』の『虎影軒(フージン)』と、ここ『江南春(ジャンナンチュン)』の開業で再び存在感を示した感がある。外国人ゲストが急増する昨今の状況と併せて鑑みるに、中国料理のポピュラリティはやはり強し、ということなのか。いずれにせよ現在は、宴席やハレの日のレストランとしてだけでなく、国際的なブランディングが求められる時代だ。

前置きが長くなったが、この日は特別な7皿のテイスティングコースが供された。前菜はキャビアと金箔が添えられた半熟卵のマリネや、鮑の清酒蒸しなどが盛り合わせに。黄金色の衣をまとった蟹の甲羅詰め、伊勢海老の上湯蒸しなど、海鮮を中心とした広東料理の花形が絢爛豪華な内容だ。

黄金色に輝く蟹の甲羅詰め。クリスピーな衣の中に、香りも旨みも凝縮された蟹の身がぎっしり
伊勢海老の上湯蒸し クコの実と卵白を添えて。芳しく濃厚な上湯が伊勢海老の風味を包み込む

残念ながら開業直後で、点心や焼き物を味わうことができなかったのだが、「心残りは再訪のモチベーション」と言い聞かせ、次回を楽しみにするとしよう。スープに使われた50年熟成の陳皮の深い芳香、デザートの豆腐花の包丁仕事の卓越など、文化点、芸術点とも高ポイントで、世界のフーディにも、味に一家言ある大阪ローカルにも支持される店になりそうだ。

鏡花水月 豆腐花のデザート。レイモンドシェフの包丁技が光る美しい“豆腐の花”。甘さが優しい

「旅館」を再構築。ラグジュアリーホテルの形を拡張する試みも

デザインの面での注目点は、インテリアデザイン3社と協業し、さまざまな顔を持つ空間を作り上げたことだ。特筆すべきは『SIMPLICITY』が手掛ける28階のコンセプトフロア『GENSUI(玄水)』。

『GENSUI』のある28階のエレベーターホール。扉が開くと、他のフロアとは一線を画す黒色で統一されている
『GENSUI』フロアの客室 畳コーナースイート(57㎡)。土間を模したエントランスの先に、旅館の離れのようなくつろぎが待つ。窓からの都市景とのコンラストも

「旅館の現代的解釈」をテーマに、室内を畳敷きにし、寝具も高級マットレスの機能性備えた布団を用意している。『GENSUI』はダイレクトチェックインが可能。同フロアにある宿泊者専用日本茶サロン『SABO』で、特別な朝食が供されるほか、滞在中を通じてお茶や菓子を楽しめる。

『SABO』では17~20時まで、ジャパニーズウイスキーや日本酒、ワインなどのアルコールも提供

『GENSUI』に象徴される和のおもてなしは、ファシリティにも通じる。東京以上に銭湯が人々の暮らしに浸透する大阪の生活文化にちなんで、銭湯インスパイアのバスルーム、サウナを用意。地上36階、大阪のスカイラインを眺めながらの入浴は格別だ。もちろん素晴らしいスパやプール、ジムなども充実している。

更衣室やシャワールーム、サウナも備えた浴場。ほかに貸し切り風呂もある
公共浴場になじみの薄い外国人ゲストや、プライベート感のあるバスタイムを楽しみたいゲストへ、時間貸しのプライベート浴室も用意

日本進出時から食のブランディングにも力を入れ、ホテルダイニングの枠を超えて日本のレストランシーンに影響を与えてきた『フォーシーズンズホテル』。間もなく、日本ではちょっと珍しいスタイルの鮨レストランが開業予定だ。ほかにも1階のロビーフロアには広いテラス席を備えたビストロ『ジャルダン』、焼きたてのパンやペストリーを楽しめる『ファリーヌ』など、宿泊者はもちろんのこと、大阪の旅の際には覚えておきたいダイニングが揃っている。個人的には『フォーシーズンズホテル大阪』のように1階にエントラス&ロビーがあるホテルが好きで、コーヒーやカクテル一杯飲みに立ち寄ることも多い。町の人が行き交う通りと、水路とつながる新しいホテルは、泊まる人、旅する人、暮らす人が交わる新しいランドマークになりそうだ。